研究実績の概要 |
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法は、生体由来試料等の質量分析手法として汎用されているが、マトリックス剤と試料の混合結晶への紫外レーザー照射により気相中に放出されたプルームのうち、99%以上の分子が中性のまま検出されていないことが知られている。本研究では、真空紫外光の1光子イオン化特性を利用して、プルーム中の大部分を占める中性分子種をソフトイオン化することで検出感度の向上を目指した。本年度は、昨年度に実施したマトリックス剤CHCA (α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)結晶に加えて、汎用されているマトリックス剤であるDHB (2,5-dihydroxybenzoic acid)、SA (sinapinic acid)結晶から生成したプルームへVUV光を照射したところ、各マトリックス剤由来の親イオン信号CHCA+, DHB+, SA+が観測された。また、DHBとアミノ酸 Phe(phenylalanine)の混合結晶のうち、Pheの混合比が比較的高くMALDIイオン信号が十分に観測されない条件下の混合結晶から生成したプルーム中へVUV光を照射したところ、DHB、Pheの親イオン信号DHB+、Phe+とそのフラグメントイオン信号が観測されたが、これらのMALDI-VUVイオン信号はMALDイオン信号よりも高い強度で観測できることがわかった。さらに、本手法はプルーム中の中性分子種の伝搬追跡手法としても用いることができ、観測されたDHB由来のMALDI-VUVイオン信号であるDHB+信号と(DHB-H2O)+信号の強度比を用いて、プルーム中の中性DHBの内部エネルギー分布を調べたところ、プルーム前方の中性DHBは後方の中性DHBと比較して周辺分子との衝突が少ない為、比較的高い内部エネルギーを保ったまま拡散し無衝突状態となることがわかった。
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