研究課題/領域番号 |
18K14892
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
谷中 冴子 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (80722777)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 免疫グロブリンG (IgG) / Fc受容体 / MDシミュレーション / 核磁気共鳴法 / 中性子溶液散乱 |
研究実績の概要 |
構造生物学的手法を駆使して抗体とFc受容体の相互作用様式を解明し、さらに得られた知見をもとに分子構造の改変により抗体の高機能化をはかることを目的とした。2018年度は高速原子間力顕微鏡、核磁気共鳴法、量子ビーム溶液散乱、分子動力学(MD)シミュレーションを用いて、抗体の溶液中のダイナミックな4次構造を局所構造と全体構造の両面から解明することに取り組んだ。 核磁気共鳴(NMR)法を用いた計測とMDシミュレーションによって局所構造の情報を得た。可溶型FcγRIII(sFcγRIII)に安定同位体標識を施し、NMR計測を行なった。多次元NMR測定により、良好なNMRスペクトルを得て、そのシグナルを帰属することに成功した。これに基づき、sFcγRIIIとIgGの相互作用解析を行った。また、IgGについては動物細胞大量発現系を用い、立体選択的な安定同位体標識を試みた。その結果、ヒト化抗体について、全長分子の良好なNMRスペクトルを得ることができた。MDシミュレーションについてはIgGの構造空間を探査する準備段階として、IgGのFc領域について総計3.2マイクロ秒の長時間のMDシミュレーションを実施した。MDシミュレーションの初期構造として非対型および対称型のFcの結晶構造に基づいて2通りのモデルを用意し、シミュレーションの結果が初期構造や計算時間にどのように依存するかを検討した。 量子ビーム溶液散乱と高速原子間力顕微鏡を用いた計測によって全体構造の情報を得た。量子ビーム溶液散乱については、研究代表者らのグループが開発してきた重水素標識によるコントラストマッチング中性子小角(SANS)法をIgGに適用するため、sFcγRIIIの重水素標識試料を調製した。高速原子間力顕微鏡を用いて、基盤に固定化したFcγRIIIの細胞外ドメインと、IgGとの相互作用を一分子レベルで観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、当初予定していた抗体のNMR計測とMDシミュレーションを着実に実施し、量子ビーム溶液散乱を行なうための準備も順調に進んだ。その結果、抗体のNMR計測については2報の原著論文発表に結実し、MDシミュレーションについても間もなく原著論文を投稿する予定である。 また、申請内容にとどまらず、高速原子間力顕微鏡による計測を実施し、Fc受容体の溶液中でのダイナミクスを一分子レベルで捉えることに成功した。そのため、計画以上に研究が進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き、構造生物学的手法を駆使して抗体とFc受容体の相互作用様式の解明に取り組む。 高速原子間力顕微鏡についてはFcγRIIIと種々のIgG分子の相互作用について一分子レベルでの観測と定量解析を実施する。NMR法については、sFcγRIIIとIgGの安定同位体標識を駆使し、相互作用部位の同定を試みる。量子ビーム溶液散乱については、コントラストマッチングSANS法を用いて水溶液中におけるIgGとFc受容体の相互作用の解析を行なう。MDシミュレーションについては、IgGのFc領域についてのMDシミュレーションで得られた動的構造アンサンブルを解析することにより、溶液中での構造ダイナミクスの情報を読み解く。さらに、完全長IgGの構造空間の探査に取り組む。 さらに、これまでの実験結果を集約し、高機能化抗体の設計に取り組み変異体を調製する。また、得られた改変抗体の物理化学的手法による親和性評価とADCC活性評価による機能評価を行なう。
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