研究課題/領域番号 |
18K14894
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 祐介 東北大学, 薬学研究科, 助教 (10748221)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トランス脂肪酸 / 細胞外ATP / DNA損傷 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
トランス脂肪酸によるDNA損傷誘導性の細胞死亢進作用について、ストレス応答性MAPキナーゼJNKを介したミトコンドリアにおける活性酸素種 (ROS)産生の重要性と、本作用に関与する分子群を同定した。現在、トランス脂肪酸の具体的な作用点として、ミトコンドリアに存在するROS産生に関与する分子が想定されており、次年度ではその詳細な機序を明らかにする予定である。トランス脂肪酸種ごとの細胞外ATP誘導性細胞死、DNA損傷誘導性細胞死の亢進作用の解析から、トランス脂肪酸の中でも、特にエライジン酸をはじめとした「人工型」と呼ばれる食品製造過程で産生される脂肪酸種の毒性(細胞死亢進作用)が強力であることが判明した。本成果は、バクセン酸などの反芻動物由来の「天然型」トランス脂肪酸よりも「人工型」トランス脂肪酸が疾患発症に寄与することを示唆していたこれまでの疫学研究を裏付けるもので、非常に重要な研究成果である。また、本毒性は、オレイン酸をはじめとした複数のシス脂肪酸の存在下で軽減可能であることも確認できた。次年度では、より広範なトランス・シス脂肪酸種について、リスク評価や毒性軽減作用の検討を行う予定で、具体的な疾患予防策の提言や食品安全性の向上に繋がる成果が期待できる。マウスレベルでの解析では、トランス脂肪酸含有高脂肪食を摂取させたマウスのNAFLD/NASH病態の解析を遂行中である。今年度は、12週間、または24週間上記食餌を摂取させたマウスの解析を実施済みで、通常の高脂肪食の摂取群と比較して、特に脂肪蓄積増加や複数の病態マーカー(α-SMA等)の上昇が認められた。次年度は、さらに長期間摂取させた際の病態についても解析を行い、トランス脂肪酸特有の病態増悪作用の同定と、その分子機序の解明を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)トランス脂肪酸の詳細な作用機構の解析:トランス脂肪酸によるDNA損傷誘導性細胞死の促進作用について、既知の関連分子である、ストレス応答キナーゼASK1、転写因子p53、TNF受容体のいずれの欠損細胞においても、トランス脂肪酸による細胞死促進は抑制されなかった。様々な阻害剤を利用した解析の結果、トランス脂肪酸存在下では、DNA損傷時のミトコンドリアROS産生が増大していた。またこの時、細胞死およびROS産生の増大が、JNKの阻害によって抑制された。実際に、阻害剤等の検討から、本経路の関連分子も複数同定できた。したがって、トランス脂肪酸によるJNKを介したミトコンドリアROS産生増大が、DNA損傷時の細胞死促進作用に寄与すると想定される。 2)脂肪酸種ごとの毒性・安全性評価:トランス脂肪酸による細胞外ATP誘導性細胞死、DNA損傷誘導性細胞死の促進作用について、食品中に含まれる様々な脂肪酸種の作用の有無を検討した。その結果、いずれの細胞死においても、主に工業的な油脂加工で産生される「人工型」のエライジン酸などが、反芻動物由来の食品に含まれる「天然型」のバクセン酸よりも強力な促進作用を有していた。また、いずれの細胞死の促進作用についても、オレイン酸やアラキドン酸をはじめとした複数の脂肪酸で抑制効果が認められた。 3)個体レベルでの病態悪化作用および作用機構の解明:トランス脂肪酸含有高脂肪食を12・24ヶ月摂取させたマウスにおける、NAFLD/NASH病態の解析を行なった。比較対象として、通常食、および通常の高脂肪食を用意した。肝臓の病態解析の結果、トランス脂肪酸含有高脂肪食の摂取群では、通常の高脂肪食摂取群と比較して、さらに著しい脂肪蓄積と共に、α-SMA(繊維化マーカー)等の複数遺伝子の発現上昇が認められた。 以上のように、当初の期待通り研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)トランス脂肪酸の詳細な作用機構の解析:トランス脂肪酸の直接的な作用点として、ミトコンドリア内のROS産生に関与する分子が候補として想定されることから、候補分子の局在・機能などへのトランス脂肪酸の影響について、生化学的・細胞生物学的な解析を行う。また、2)での脂肪酸種ごとの毒性・安全性評価の結果を踏まえ、各種トランス脂肪酸の細胞死亢進作用に関わる分子への機能的影響が、毒性の程度と相関することを確かめる。シス脂肪酸による毒性軽減作用についても、実際に関連分子の機能の阻害作用の有無について検討を行い、軽減作用の作用機構を検証する。 2)脂肪酸種ごとの毒性・安全性評価:初年度に明らかにしたトランス脂肪酸種ごとの毒性評価、シス脂肪酸による毒性軽減効果の検討は、解析対象が一部脂肪酸種に留まっていたため、今後は解析対象を広げ、より広範な脂肪酸種について毒性評価・安全性評価の検討を行う予定である。本解析により、科学的根拠に基づき、疾患発症に寄与するトランス脂肪酸種の特定、および食品中組成・含有量の規制が可能となり、食品安全性の向上に繋がる成果が期待できる。 3)個体レベルでの病態悪化作用および作用機構の解明:トランス脂肪酸含有高脂肪食を36ヶ月摂取させたマウスの解析も予定しており、これまで回収したサンプルと合わせて、経時的な病態の変化を解析する。トランス脂肪酸の摂取に伴って、比較対象である通常食や通常の高脂肪食摂取の場合には認められない、特異的に発生する病態悪化作用の実態を捉え、これまで明らかにした細胞外ATP誘導性細胞死、DNA損傷誘導性細胞死に関連する分子の機能変化や病態への寄与を調べることで、その背景にある分子機序の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度で行なった細胞関連の実験、マウス関連の実験が、予備検討および本番の解析のいずれも比較的スムーズに完了したため、予定よりも物品費の支出額が少額で済んだ。前年度の結果を踏まえ、次年度はより大規模で包括的な解析を行うことを計画しており、当初の予定よりも物品費の支出が大幅に増加する予定である。以上のような状況から、前年度の予算の一部を繰り越し、次年度に使用することとした。
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