トランス脂肪酸によるDNA損傷誘導性細胞死の促進作用機構について、詳細な解析から、ストレス応答性MAPキナーゼJNKを介したミトコンドリア活性酸素(ROS)産生増大が細胞死促進に寄与することを明らかにした。また、このROS産生増大は、ミトコンドリア外膜に局在するJNKのアダプター分子Sabを介したものであることも明らかにした。以上の成果については、論文にまとめて投稿し、刊行に至った。 トランス脂肪酸による細胞外ATP誘導性細胞死、DNA損傷誘導性細胞死の促進作用について、昨年度よりもさらに広範な種類の脂肪酸種ごとの違いを評価した結果、食品製造過程で産生される「人工型」トランス脂肪酸であるエライジン酸やリノエライジン酸の作用が、反芻動物由来の「天然型」トランス脂肪酸であるバクセン酸やルーメン酸よりもはるかに強力であることを見いだした。また、両促進作用に対する様々なシス脂肪酸の影響を評価したところ、オレイン酸がDNA損傷誘導性細胞死の促進を強力に抑制する一方、EPAやDHAはATP誘導性細胞死の促進を特に強力に抑制するという脂肪酸特異性の違いが認められており、この違いを規定する分子機構の解明は、今後の課題である。 マウス個体レベルの解析として、トランス脂肪酸含有高脂肪食を摂取させたマウスのNAFLD/NASH病態の解析を行った。12週摂取後、通常の高脂肪食摂取群と比較して、トランス脂肪酸含有高脂肪食摂取群では、脂肪蓄積増加に伴って、肝細胞の老化マーカー(SA-βGal)および炎症関連因子や細胞外マトリクス因子などの細胞老化関連分泌形質(SASP)因子の発現上昇が認められたことから、トランス脂肪酸は、肝臓の老化に伴って脂肪蓄積を促進することが示唆された。実際に、細胞レベルの解析からも、トランス脂肪酸がDNA損傷時の細胞老化を促進する作用を有することが確認できた。
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