リン脂質代謝酵素であるホスホリパーゼA2(PLA2)の腸内細菌叢の制御を介した疾患制御機構の解明について研究を遂行した。リン脂質代謝酵素PLA2のアイソザイムの一種であるX型分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2-X)は全身の組織のなかでほぼ大腸にしか発現が認められないにも関わらず、遠隔組織である脂肪組織での表現型が認められる。 sPLA2-X欠損マウスにおいては高脂肪食負荷肥満モデルにおいて増悪が認められるが、この表現型への腸内細菌叢組成の変化の寄与について、Co-housingを用いて検討すると、Co-housingにより表現型の消失が認められた。このことから、sPLA2-Xによる肥満の表現型には少なくとも腸内細菌叢の組成変化が関与することが明らかになった。腸内細菌叢の組成について精査したところ、Clostridium属の特定のクラスターの割合が減少していた。さらに、腸内細菌由来の代謝物を測定した結果、sPLA2-X欠損マウスでは酢酸、酪酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸の産生の減少が認められた。腸内細菌由来の短鎖脂肪酸は、腸管免疫に寄与していることが報告されており、この短鎖脂肪酸の変化も本研究での表現型の一因となっていることが考えられた。また、短鎖脂肪酸は、腸管上皮細胞のバリア機能の促進にも関与していることが報告されていることから、FITC-dexitranを用いて腸管におけるバリア機能を評価したところ、sPLA2-X欠損マウスにおいては、バリア機能が低下する傾向が認められた。 以上より、sPLA2-Xは腸内細菌叢の制御を介して腸管免疫に寄与し、その免疫の変化が全身にも波及したことで遠隔組織における表現型にも関与している可能性が示唆された。
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