研究課題
熱ストレスへ正常に応答することは生物の生存において重要であり、熱ストレスへの応答異常は神経変性疾患やがんなど様々な疾患の原因の一端となっている。申請者はストレス応答を担う新たな因子として、長鎖非コードRNAに着目した解析を行ってきた。その過程で、以下の新規事象を発見した。すなわち、通常は核スペックルという核内構造体に局在するMALAT1長鎖非コードRNAが、熱ストレスに応答して核スペックルから離脱し新規核内構造体(MALAT1含有新規核内構造体と命名)を形成することを見出した。この新規構造体を介した新規の熱ストレス応答機構の存在が期待される。そこで本研究ではMALAT1含有新規核内構造体を介した遺伝子発現の制御機構を解明し、熱ストレス応答におけるこの構造体の生理的意義を明らかにすることを目的とした。本年度は、①MALAT1含有新規核内構造体と相互作用するゲノムDNAの特定するための手法の確立と②RNA-seq解析を用いてMALAT1制御下にある熱応答性遺伝子発現の理解を目標として研究を行った。その結果、任意のRNAと相互作用する因子の画期的な解析手法であるChIRP法を用いて、MALAT1 RNAを特異的に回収できることを確認した。この手法を用いて熱ストレス時にMALAT1と特異的に相互作用するゲノムDNA領域を同定した。また、MALAT1ノックアウト細胞を熱ストレス処理し、回収したRNAを次世代シーケンサーに供することで、MALAT1制御下にある熱応答性遺伝子を同定することができた。
2: おおむね順調に進展している
熱ストレス応答時のMALAT1含有新規核内構造体を介した遺伝子発現制御機構を理解する上で、MALAT1含有核内構造体が標的とするゲノムDNA領域を特定することは必要不可欠である。そこで、任意のRNAと相互作用する因子の画期的な解析手法であるChIRP法を用いて、熱ストレス時にMALAT1と特異的に相互作用するゲノムDNA領域を試みた。本研究計画において、ChIRP-seq法の確立が最も難航すると予想していた。しかし、目標としていた2018年度内にChIRP-seq法を用いてMALAT1と相互作用するゲノムDNA領域の同定をすることができたため、概ね順調に進展していると判断した。
本年度得られたChIRP-seqのデータ並びにRNA-seqのデータをさらに詳細に解析することで、MALAT1を介した熱応答性遺伝子発現制御の解明をめざす。具体的には、ChIRP-seqの結果から結合する転写因子を予測し、予測された転写因子が遺伝子発現に寄与するか否かを検証する。また、RNA-seqのデータを用いて、スプライシングパターンの変化があるか否かについても解析を行う。スプライシングパターンの変化が見られたものについては、スプラシングバリアントを検出する特異的RT-PCRによって再現性の確認実験を行う。
東京大学の女性スキルアップ支援に採択されたため、本科研費で負担予定であった学会参加費・宿泊費等の旅費の一部をサポートしてもらえたため、差額が生じた。また、先進ゲノム支援にも採択され、次世代シーケンス解析でサポートを受けることができたので、当初の計画よりも支出が少なくなった。本年度得られた成果を踏まえて検証実験を行う際にsiRNAや抗体など高価な試薬の購入の必要があるので、本年度生じた差額はそれらの実験に使用する計画を立てている。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Frontier in Genetics
巻: 8 ページ: -
10.3389/fgene.2017.00208
EMBO journal
巻: 37 ページ: -
10.15252/embj.201797723