研究課題
プロスタグランジン (PG)は生体膜リン脂質からホスホリパーゼA2によって切り出されたアラキドン酸をもとに、シクロオキシゲナーゼを律速酵素として産生される代表的な生理活性脂質であり、発熱、疼痛、炎症を代表とする様々な生理作用を示す。申請者はこれまでPG受容体を介した脂質恒常性の制御機構を解析しており、本研究では熱産生機構に注目して、PG受容体が褐色脂肪組織 (BAT)機能や白色脂肪組織(WAT)の褐色化 (Browning)の調節に関与するかを明らかにすることが主目的である。申請者は一部のPG受容体欠損マウスにおいて、寒冷条件下での体温維持に異常が生じることを見出し、本受容体が熱産生調節に寄与することを明らかにした。しかしながら寒冷刺激下での本受容体欠損マウスのBATおよびWATにおいて、熱産生を担う脱共役タンパク質(UCP1)の発現量は野生型と大きな差が見られず、現時点ではBAT機能やWATのBrowningを本受容体が直接制御するエビデンスは得られていない。一方、興味深いことに本欠損マウスでは、BAT熱産生の基質として利用される遊離脂肪酸の血中濃度が野生型に比べて低いことを見出し、これが本マウスの熱産生異常の一因である可能性が考えられた。また、本受容体欠損マウスの白色脂肪組織では、主要な細胞外マトリクス成分であるコラーゲンの一部の分子種が発現低下しており、脂肪細胞周囲のコラーゲン繊維構造に異常が生じることを見出した。次年度は、寒冷刺激条件の細かいタイムポイントをとり、本PG受容体の熱産生機構制御への関与を詳細に解析するとともに、本受容体による脂肪組織コラーゲン繊維形成制御機構や、コラーゲン繊維形成が脂肪細胞機能に与える影響を解析する。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していたPG受容体によるBAT機能やWATのBrowning制御への直接的な関与は示せていないが、遊離脂肪酸の放出など、脂肪細胞機能を調節することでPG受容体が熱産生を制御する可能性を見出したこと、また、本受容体が脂肪細胞のコラーゲン繊維形成を制御するとの新しい知見が得られたため、「おおむね順調に進展している」とした。
今後は、寒冷刺激の細かいタイムポイントをとってBAT、WATにおける熱産生調節因子の誘導を調べ、PG受容体がBAT機能やWATのBrowning制御に関与するのかを詳細に解析する。また、PG受容体による脂肪組織のコラーゲン繊維形成制御が再現される培養脂肪細胞系を構築し、繊維形成の制御機構や、それによる脂肪細胞機能への影響を解析する。
今年度の実験に用いた試薬や消耗品等のほとんどは、研究室の別テーマの実験と共有して使用することができたため。次年度は、マウスを用いた寒冷刺激実験や、脂肪細胞培養系の確立がメインとなるため、マウスの購入費や、細胞培養関連の消耗品に予算を使用する。また、本研究成果を論文化するため、英文校正や論文投稿費にも予算を使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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