研究課題/領域番号 |
18K14906
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
坂本 太郎 北里大学, 薬学部, 助教 (10383655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化脂質 / フラクソーム解析 / 重水素型リン脂質 / 細胞死 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
生体膜を構成するリン脂質は容易に活性酸素の標的となってリン脂質ヒドロペルオキシドを生成する。申請者はこれまでに、膜に生じたリン脂質ヒドロペルオキシドを直接消去する抗酸化酵素であるPHGPxを欠損すると、既知の細胞死とは異なる脂質酸化依存的な新規細胞死が起きることを明らかにしている。本研究の目的は、新規重水素型リン脂質ヒドロペルオキシドと液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いたフラクソーム解析によりPC-OOH代謝マップを作成し、脂質酸化依存的新規細胞死におけるリン脂質ヒドロペルオキシド代謝経路の全体像を明らかにすることであり、2018年度は以下のことを明らかにした。 1. フラクソーム解析に用いる重水素型リン脂質ヒドロペルオキシド(PC-OOH_D3)ライブラリーの構築 重水素化コリンとGlycidolをリン酸エステル化させ、次いでsn-1位選択的にパルミチン酸を縮合させた。さらに、sn-2位にリノール酸を縮合させてPC_D3を合成し、最後にリポキシゲナーゼ反応により酸化してPC-OOH_D3を得た。本合成法を他の脂肪酸にも応用することにより、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、アラキドン酸、DHA、それらの未酸化体、過酸化体を組み合わせた12分子種のPC-OOH_D3ライブラリーを構築した。 2. PC-OOH_D3代謝マップの作成 合成したPC-OOH_D3と細胞ホモジネートを混合し、試験管レベルでのフラクソーム解析を行った。重水素型PCに特異的なm/z 187のフラグメントを利用し、MSによるプリカーサーイオンスキャンを行うことでPC-OOH_D3の代謝マップを作成した。その結果、既存のPC-OOH代謝経路に加え、sn-1の脂肪酸を切り出したLPC-OOHやLPC-OHに代謝する経路が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラクソーム解析に必要不可欠なPC-OOH_D3を簡便に合成可能な実験系を立ち上げ、様々な脂肪酸側鎖を持ったPC-OOH_D3ライブラリーの構築に成功している。また実際にPC-OOH_D3を用いたin vitroでのフラクソーム解析を行い、新規な代謝経路の存在を見出している。すでにin vivoでのフラクソーム解析にも着手し有益に結果をえており、当初予定していた研究計画は遂行できているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は細胞に直接PC-OOH_D3を添加して代謝物を追跡するin vivoフラクソーム解析を行い、より生理的な条件下におけるPC-OOH代謝経路を解析する。その際PC-OOHを効率よく細胞内に取り込ませることが重要になることが予想される。エタノール溶解液で取り込ませるだけでなくリポソーム化して取り込ませる、あるいは細胞膜リン脂質のフリップフロップを担う酵素を過剰発現させるなどして、高効率にPC-OOHを細胞内に取り込ませる系の確立を目指す。さらに申請者らが明らかにしている新規細胞死に関与する遺伝子を過剰発現させることにより、それらがPC-OOH代謝にどのように関与しているのかについても検討する。
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