生体膜を構成するリン脂質は容易に活性酸素の標的となってリン脂質ヒドロペルオキシドを生成する。申請者はこれまでに、膜に生じたリン脂質ヒドロペルオキシドを直接消去する抗酸化酵素であるPHGPxを欠損すると、既知の細胞死とは異なる脂質酸化依存的な新規細胞死が起きることを明らかにしている。本研究の目的は、新規重水素型リン脂質ヒドロペルオキシドと液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いたフラクソーム解析によりPC-OOH代謝マップを作成し、脂質酸化依存的新規細胞死におけるリン脂質ヒドロペルオキシド代謝経路の全体像を明らかにすることであり、2019年度は以下のことを明らかにした。 1. 重水素型リン脂質ヒドロペルオキシド(PC-OOH_D3)の合成方法の改善 重水素型リン脂質合成の最初の反応である重水素化コリンの合成について効率化を図る目的で、重メタノールとパラトルエンスルホン酸の混合割合について検討した。その結果、従来の二倍量の重メタノールを用いることで再現性良く合成反応を行えることが明らかとなった。 2. PC-OOH_D3代謝マップの作成 合成したPC-OOH_D3を培養細胞に取り込ませ、細胞レベルでのフラクソーム解析を行った。重水素型PCに特異的なm/z 187のフラグメントを利用し、MSによるプリカーサーイオンスキャンを行うことでPC-OOH_D3の代謝マップを作成した。その結果、野生型細胞に比べPHGPx欠損細胞では、過酸化脂肪酸を切り出したLPC_D3への代謝活性が高いことが明らかとなった。一方でPC_D3への再アシル化活性は低く、PHGPx欠損細胞ではPC-OOH_D3が未知の物質に代謝されていること示唆された。
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