令和元年度は、D-グルタミン酸およびDDO-3が作用する寿命制御経路に関する研究を進めた。 TOR(Target of Rapamycin)複合体の一つであるTORC1はアミノ酸が存在している状況においてリボソームの生合成や翻訳を促進し、RagA(RAGA-1)はアミノ酸によるTORC1の活性化に関与する。一方、GCN2キナーゼ(GCN-2)はアミノ酸の飢餓の状況においてそれらを抑制する。RAGA-1およびGCN-2の下流においてNRF2転写因子(SKN-1)は寿命を調節する。MAPキナーゼ(MPK-1)もまたSKN-1を活性化させることができる。これらの遺伝子をノックダウンあるいはノックアウトさせたDDO-3欠損変異体の寿命を解析した結果、DDO-3欠損変異体の寿命延長はアミノ酸感受システムに強く関与していることが示唆された。 哺乳類に存在するD-セリンおよびD-アスパラギン酸はそれぞれNMDA受容体のコアゴニストおよびアゴニストとして作用することで記憶や学習を調節している。D-グルタミン酸は部分的アゴニストとして哺乳類NMDA受容体に作用することができるが、その生理学的役割は明らかになっていない。NMDA受容体関連遺伝子とDDO-3の二重欠損変異体にD-グルタミン酸処理を行い寿命を解析した結果、DDO-3欠損変異体で蓄積したD-グルタミン酸がNMDA受容体を介して寿命を延長させていることが示唆された。 今後は、D-グルタミン酸が線虫のアミノ酸感受システムおよびNMDA受容体を介した神経伝達にどのように関与して寿命を調節しているのかを明らかにしたいと考えている。
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