研究課題/領域番号 |
18K14909
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
安田 浩之 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助手 (40780284)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好中球細胞外トラップ / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究は、好中球の新たな細胞死形態である好中球細胞外トラップ(NETosis)の誘導メカニズムをより詳細に明らかにするため、好中球の分化制御に関与すると考えられるエピジェネティクス、特にDNAメチル化制御に着目して検討を進めている。研究代表者は、DNAメチル化転移酵素であるDNMT1の阻害剤(5-azacytidine; Aza)をHL-60細胞の分化時に添加することでNETosisが誘導されることを見出した。分化に関与するDNAメチル化制御がその後のNETosisに影響するという結果は、好中球のエピジェネティクス変化が様々な病態の一端に関与することにつながると考えられる。また、NETosis誘導因子として考えられているmyeloperoxidase(MPO)や活性酸素種(ROS)は、このDNAメチル化制御が関与するNETosis誘導に影響しないことが示唆された。MPOやROSはNETosisにおける細胞膜破綻に関与するという報告もあることから、DNA脱メチル化によるNETosisの誘導亢進は上記以外の経路で起こると考えられる。現在までにpeptidylarginine deiminase 4(PAD4)がこのNETosis亢進に関与すると考えているが、直接的な細胞膜破綻には関与しないと思われる。NETosis誘導におけるPAD4の重要性や、PAD4やMPO発現におけるエピジェネティクスの関与という報告はいくつか存在するが、それらを結びつける報告は無い。本研究はNETosis誘導メカニズム解明における新たな焦点になると考える。また、DNA脱メチル化機構に関与するten-eleven translocation(TET)の存在や脱メチル化過程で検出されるヒドロキシメチル化シトシンの存在も確認できたため、好中球の分化過程においても新たな機構が存在する可能性を示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画では、培養細胞であるHL-60細胞に対し、DNAメチル化転移酵素であるDNMTやDNA脱メチル化機構に関与するTETのノックダウンを行うため、siRNAを用いたトランスフェクション方式によって各遺伝子欠損細胞を作製することを予定していた。浮遊系細胞へのトランスフェクションの困難さはよく知られているため、ノックダウンが保証されているsiRNAや導入効率の良いトランスフェクション試薬を用いて、同じHL-60細胞を用いたトランスフェクション実験を行っている論文を参考に当研究室においても実験を行ったが、導入効率の悪さや細胞への傷害が顕著に観察された。したがって、当初予定していた遺伝子欠損細胞の作製を中断し、DNMTやTETを阻害できる試薬の探索と平成31年度に予定していたNETosis誘導におけるヒドロキシメチル化シトシン(5hmC)の関与の予備検討を先行して進めた。DNMT阻害剤はAzaの他にも幾つか存在することはわかり、異なる経路でのDNAメチル化の阻害を行うことでDNAメチル化におけるDNMT1の重要性などの結果を得られると考える。TETはαヒドロキシグルタル酸が阻害するという報告が唯一あるため、それをTET阻害剤として使用することとした。また、分化した好中球において5hmCの存在が確認できたため、好中球分化におけるDNA脱メチル化機構の関与が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
HL-60細胞へのトランスフェクションによる遺伝子欠損細胞の作製は、エレクトロポレーションによるsiRNA導入やCRISPER/Cas9によるトランスフェクションなど代替案は考えられるが、平成31年度に予定していた研究計画に遅れが生じる可能性があるため、いくつかの各阻害剤を用いて研究を進めることにする。これによりDNAメチル化の阻害経路の違いやDNA脱メチル化機構の関与を示唆する結果を得られると考える。また、好中球分化やNETosisにおけるDNA脱メチル化機構の関与の検討は、当初の計画通り、好中球分化において発現が変動するPAD4やMPO遺伝子のプロモーター上にTETや5hmCが結合、または存在することをChIP法やMeDIP法を用いて行う。さらに、細胞外に放出されたDNAから5hmC量などを測定するために、ELISAを用いて計測し、免疫染色法を用いることで放出されたDNAに存在する5hmCの分布を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果に関する費用が予算額より下回ったため、次年度使用額が生じた。その費用を次年度の研究発表費用に充てる予定である。
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