研究実績の概要 |
近年、食品および医薬品の安全性評価の際に、動物実験代替法またはヒトでの評価法として、幹細胞より分化誘導した器官を用いた試験法が開発されつつある。しかし、幹細胞の株の種類、維持手法、および分化誘導方法の違いによる樹立細胞および器官について、トランスクリプトームやプロテオームに関する基礎的な科学的知見が少ない。本研究では、腸組織を標的とし、in vitroで汎用される標準的な幹細胞各株とそれを用いて分化誘導する内胚葉、腸細胞そして腸オルガノイドの遺伝子とタンパク質発現プロファイリングを行い、その発現の変動を解析することで、実際のヒトの器官を模する技術の基礎的データを収集することを目的とする。 マウスES細胞株EB5を用いて、胚胎内胚葉への分化ステップについて、各種マーカーを用いて検討した。既報(Nat Medecine, 23, 49-59, 2017)の方法を参考に、GSK3β inhibitorであるCHIR99021の有無の2条件で誘導を行ったところ、いずれの条件においても分化マーカーSOX17は良く発現していたがFOXA2の発現程度があまり高くない傾向にあった。ヒトiPS細胞では両マーカーがよく発現して胚胎内胚葉へ分化が進むようであるが、マウスES細胞では分化過程で同様なマーカー発現パターンにならないことが示唆された。これらの分化マーカーの発現程度の差異の原因はわかっていないが、今後幹細胞の株や宿主の違いも考慮した解析を行い、より良い分化条件を明らかにしていく予定である。
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