研究課題/領域番号 |
18K14913
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
土屋 光 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 研究員 (90760132)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
ユビキチン・プロテアソーム系による選択的なタンパク質分解は様々な生命現象を制御している。従来、ユビキチン化された基質タンパク質は二つのユビキチン受容体(Rpn10、Rpn13)を介してプロテアソームによって直接認識されて分解されると考えられてきた。一方、補完的な経路として、RAD23やUBQLNファミリーなどのUBL(Ubiquitin-like)- UBA (Ubiquitin binding)ドメインをもつシャトルタンパク質がユビキチン化タンパク質をプロテアソームに運搬する間接的な経路も報告されていたが、これら分子がプロテアソーム分解にどの程度寄与しているのかは不明であった。 代表者らは定量プロテオミクス解析により、プロテアソーム基質の実に約90%がシャトル分子によって捕捉されてプロテアソームへと運搬される「シャトル経路」を介することを見出した。一見、非効率的に思える「シャトル経路」を細胞が主に用いる理由として、シャトル分子の結合がアロステリックにプロテアソーム活性を制御する可能性が考えられる。しかしながら、シャトル分子がどのようにしてユビキチン化基質をプロテアソームに受け渡しプロテアソーム機能を調節するのか、その詳細は不明である。そこで本研究では、シャトル分子と連携してプロテアソーム活性を制御する相互作用因子群を同定し、シャトル経路の分子機構を解明する。特にプロテアソーム結合性ユビキチンリガーゼに着目し、プロテアソーム分解制御における役割およびシャトル分子との機能連携を解明することにより、プロテアソーム活性制御機構の分子基盤を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シャトル経路はプロテアソーム分解の大部分を仲介することから、シャトル分子による基質運搬とプロテアソーム分解の活性化は共役していることが予想されるが、その分子機構は不明である。興味深いことに、プロテアソーム活性制御因子群の一部は、シャトル分子の結合サブユニットであるRpn10と相互作用する。従って、シャトル分子のプロテアソームとの結合が他の制御因子群の相互作用を変化させる可能性が考えられる。そこで本研究では高感度質量分析技術を駆使した定性・定量プロテオミクスを用い、シャトル分子と連携してプロテアソーム活性を制御する相互作用因子群を同定し、シャトル経路の分子機構を解明する。まず、Rpn10と相互作用するタンパク質の同定を試みた。HCT116細胞抽出液からGST融合Rpn10を用いてプルダウンアッセイをおこない相互作用タンパク質の同定を試みた。その結果、Rpn10の機能未知ドメインと相互作用するユビキチンリガーゼを同定した。さらに、ユビキチンリガーゼのプロテアソーム相互作用部位を同定し、N末端の領域がプロテアソームとの相互作用に必須であることを見出した。 また、哺乳類細胞におけるプロテアソーム精製系を確立し、阻害剤処理によりプロテアソーム相互作用分子がプロテアソーム上で変動することを明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
同定したプロテアソームと結合性ユビキチンリガーゼがプロテアソームと相互作用する意義の解明を試みる。プロテアソームとの結合能を欠損させたユビキチンリガーゼ発現細胞を樹立し、既知の基質の分解に及ぼす影響を検討する。また、ユビキチン化基質を網羅的に同定・定量することによりシャトル分子とユビキチンリガーゼのプロテアソーム上での基質選択性を検討する。ユビキチン化されたタンパク質をトリプシン消化すると、ユビキチン由来配列(C末端diGly) が基質タンパク質のリジン残基に負荷した特徴的なユビキチン化ペプチド(diGly-Lys)が生じる。代表者らはユビキチン鎖に対する高親和性プローブTR-TUBEと抗diGly-Lys抗体を組み合わせたユビキチン化基質の網羅的同定法を確立している。そこで、WTおよび各種ノックアウト細胞からTR-TUBEを用いたアフィニティー精製によりユビキチン化タンパク質を調製し、トリプシンで消化する。次いで抗diGly-Lys抗体によりユビキチン化ペプチドを濃縮し、高分解能質量分析計を用いたショットガン解析をおこなう。さらに、ユビキチン化ペプチドのプレカーサーイオンのピーク面積を指標とした半定量解析により量的な変動も解析し、ユビキチン化基質分解へ与える影響を試験管内でのプロテアソーム分解再構築系にて直接評価するプロテアソームへの結合が基質分解に必須であるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、情報収集として国内学会2件を予定していたが、1件となったため次年度への繰り越しが生じた。次年度の成果報告のための学会参加費として使用する予定である。
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