研究課題/領域番号 |
18K14914
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
田中 亨 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (50806065)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 細胞分化 / エピジェネティクス / ヒストン修飾 / HDAC |
研究実績の概要 |
血管内皮細胞はVEGFシグナルやALK1シグナルを介して動脈・静脈内皮細胞へと成熟し、これらの細胞はそれぞれ特異的な遺伝子発現パターンを生み出している。動脈内皮細胞ではCXCR4やEFNB2、静脈内皮細胞ではAPLNRやNR2F2の発現が高いことが知られている。この遺伝子発現の違いは血管形成に重要であるが、動脈・静脈内皮細胞特異的な遺伝子発現がどのように生み出されているかは不明である。そこで本研究では、動脈内皮細胞への分化におけるエピジェネティック修飾、特にヒストン修飾の役割の解明を目的とした。まず、ヒストンアセチル化およびメチル化が内皮細胞の動脈化に寄与するかを調べるため、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)およびヒストンメチル化酵素阻害剤を内皮前駆細胞からCD31+細胞への分化誘導時に処理し、CD31+細胞におけるCxcr4の発現を解析した。その結果、Class I HDAC阻害剤によってCxcr4high細胞が減少した。この現象は複数のClass I HDAC阻害剤によって確認できたが、Class II HDAC阻害剤およびヒストンメチル化酵素阻害剤では見られなかった。さらに、CD31+細胞の遺伝子発現解析において、Class I HDAC阻害剤は動脈マーカー(Efnb2、Gja5、Cxcr4)発現を一様に減少させた。以上のことから、Class I HDACが動脈内皮への分化に寄与することが示唆された。今回用いた複数のClass I HDAC阻害剤はHDAC1を共通して阻害することから、HDAC1が内皮細胞の動脈化への寄与することが考えられた。また、HDAC1は様々な細胞種においてHDAC2と相補的に働くことから、HDAC1に加えてHDAC2の意義について検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度では動脈・静脈内皮細胞への分化に寄与するエピジェネティック修飾因子を同定し、動脈・静脈内皮細胞での動静脈マーカー遺伝子領域周辺のエピジェネティック修飾の違いを解析する計画であった。血管内皮細胞へのES細胞分化系を用いた解析からHDACが動脈内皮細胞への分化に寄与することを示唆する結果は得られている。しかしながら、ES細胞から血管内皮細胞への分化誘導に日数がかかる上、阻害剤の細胞毒性を抑えるための濃度検討に予定よりも時間がかかってしまった。そのため、動脈・静脈内皮細胞での動静脈マーカー遺伝子領域周辺のエピジェネティック修飾解析への取りかかりは遅れたが、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
血管内皮細胞の動脈化においてHDAC1およびHDAC2が寄与するかを明らかにするために、動脈内皮細胞における動脈マーカー遺伝子(Efnb2、Gja5、Cxcr4)のPromoter/Enhancer領域におけるHDAC1/2の結合部位の同定、ならびに動脈・静脈内皮細胞におけるヒストン修飾(H3K9Ac、H3K27Ac)の違いを分子生物学的手法により解析する。また、HDAC1/2のfloxedマウス系統を用いて内皮特異的欠損マウスを作成し、マウス胎仔における血管形態形成への影響と動脈マーカーの発現を組織学的・分子生物学的手法により解析する計画である。 さらに、HDAC1/2がヒストン修飾を規定する分子メカニズムとして動脈化に寄与する転写因子の関与が考えられる。そこでHDAC1/2の結合およびヒストン修飾の違いが見られたPromoter/Enhancer領域に結合する転写因子を探索し、転写因子とHDAC1/2がヒストン修飾を変化させるメカニズムを解析する。
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