血管内皮細胞はVEGF・NOTCH・ALK1シグナルなど多様なシグナル伝達系を介して遺伝子発現を変化させ、動脈および静脈内皮細胞へと成熟する。動脈内皮細胞ではCXCR4やHEY1/HEY2、静脈内皮細胞ではEPHB4やNR2F2の発現が高いことが知られており、この遺伝子発現の違いは血管形成に重要であるが、動脈・静脈内皮細胞特異的な遺伝子発現がどのように生み出されているかは不明である。そこで本研究では、血管内皮細胞への分化および形質制御におけるエピジェネティック修飾、特にヒストン修飾の役割の解明を目的とした。ES細胞の内皮細胞分化系を用いて種々のヒストン修飾因子阻害剤の効果を検証したところ、その一部が特異的に動脈マーカーの発現を抑制し、静脈マーカーを増加させることを見いだした。このことから、これらの阻害剤の標的因子群が内皮細胞の動脈化に寄与することが示唆された。そこで、標的とされるヒストン修飾因子群が静脈特異的遺伝子の発現を抑制することで内皮細胞の動脈化に寄与するという仮説を考え、静脈特異的遺伝子の発現制御機構の解析を行なった。ヒストン修飾因子群のsiRNAを用いてノックダウン実験を行なったところ、その発現抑制によって静脈特異的遺伝子の発現が顕著に増加した。以上のことから、血管内皮細胞において特定のヒストン修飾因子が静脈特異的遺伝子の発現を抑制することが示唆された。今後、ヒストン修飾因子の結合領域の同定、結合領域のヒストン修飾変化を解析することでより詳細な遺伝子発現制御メカニズムを解析していく予定である。
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