胆汁酸は消化管における脂質の吸収に寄与するが、その界面活性作用により、胆汁鬱滞時に肝細胞の細胞膜に障害を与え深刻な肝炎を惹起する。健常時、胆汁中の主要成分のひとつであるリン脂質が、胆汁酸と混合ミセルを形成することで、胆汁酸の細胞毒性を減弱させる。胆汁中へのリン脂質排出には、肝細胞の毛細胆管膜上に発現しているABCトランスポーターの一種であるABCB4が関与している。そのため、ABCB4のリン脂質排出を活性化する化合物は胆汁鬱滞性肝障害の治療に有用であることが期待できる。 昨年度までの研究成果により、タウリン抱合型のヒオデオキシコール酸とウルソデオキシコール酸が、ABCB4発現培養細胞による培地中へのリン脂質排出ならびにマウス胆汁中へのリン脂質排出を促進することを見いだしていた。また、胆汁酸とリン脂質の混合ミセル形成が、ABCB4のリン脂質排出を促進するために重要な過程であることを明らかにしていた。そこで、コール酸含有食を摂餌させることで胆汁鬱滞性肝障害を示したマウスにタウリン抱合型ヒオデオキシコール酸とタウリン抱合型ウルソデオキシコール酸を1日1回3週間静脈注射投与し、それぞれの治療効果を評価した。肝障害マーカーとして評価項目としたAST、ALT、ALPはタウリン抱合型ヒオデオキシコール酸投与群において低下、すなわち胆汁鬱滞性肝障害の改善傾向がみられた。しかし個体差もみられており、さらなる評価が必要と考えている。今後は、タウリン抱合型ウルソデオキシコール酸投与群の評価も含めてABCB4のリン脂質排出を活性化することによる胆汁鬱滞性肝障害の治療効果を明らかにするとともに、より高い治療効果を有する化合物の合成を可能とするためABCB4のリン脂質排出機序を分子レベルで解明したいと考えている。
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