研究課題
うつ病の治療法としては、抗うつ薬による薬物療法が主流であるが、定義にもよるものの約30%の患者が治療抵抗性を示すことが大きな問題となっている。この治療抵抗性うつ病を克服するため、高い有効性と安全性を併せ持ち、副作用が少ない新たなうつ病治療選択肢の創出が求められている。申請者はこれまで薬理学的手法を用いて、精神疾患治療薬がセロトニン神経に与える影響を解析してきたが、その過程で、ケタミンやオランザピンなど、抗うつ作用を示すものの、従来はセロトニン神経に作用しないと思われていた薬物を含めて、抗うつ薬のほとんど全てがセロトニン神経の活性化作用を有することを見出してきた。一方で、セロトニン神経自体も、その受容体であるセロトニン受容体も、脳全体に広く投射、分布していることから、セロトニン神経全体の活性化や、脳全体のセロトニン受容体の刺激/阻害のみでは、副作用なく抗うつ作用のみを引き起こすことは困難であることが強く示唆されている。本研究の目的は、解剖学的にも機能的にも多様なセロトニン神経回路網から、抗うつ作用を司るセロトニン神経回路を同定し、その投射先にヒト幹細胞由来セロトニン神経を移植することで、精神依存性などの副作用なく抗うつ効果が得られるかを前臨床で検証することである。本目的の達成のため、本年度は、光遺伝学的手法による抗うつセロトニン神経回路の同定および、ヒトiPS細胞のセロトニン神経への分化誘導条件の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、セロトニン神経特異的ウイルスベクターを用いて、背側縫線核セロトニン神経の活性化が抗うつ作用を引き起こすことを見出し、論文報告した。また、精神依存性に関わると考えられるセロトニン神経回路についても同定し、現在その分子機構を解析中である。ヒトiPS細胞由来セロトニン神経については、いくつかの転写因子の過剰発現により2週間以内にセロトニン神経が得られることを見出すとともに、様々な低分子/モルフォジェンの存在下で検討を行い、最適と考えられる条件を見出した。以上の結果から、おおむね順調に進展していると判断した。
当初計画通り、光遺伝学的手法により抗うつ作用を司るセロトニン神経回路を同定するとともに、決定した分化誘導条件を用いて誘導したヒト幹細胞由来セロトニン神経を移植することで抗うつ効果が得られるか検討する。
細胞の増殖が想定よりも遅く、一部のプローブを用いた解析の実施に必要な細胞数を得ることができなかったことから、次年度使用額が生じた。研究計画通り、プローブ等を次年度に購入し用いるため、次年度に使用する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/channel/