ヒト胎盤関門は合胞体化した栄養膜細胞で形成される。昨年度、栄養膜モデル細胞であるJEG-3におけるmiR-126の標的遺伝子として、栄養膜細胞の多能性維持に関与する癌原遺伝子LIN28Aを見出した。そこで、miR-126による栄養膜の合胞体化促進機構がLIN28A発現抑制を介するのかを検討した。JEG-3細胞にLIN28Aを過剰発現させたところ、栄養膜細胞の膜融合性遺伝子であるsyncytin-1/-2の発現は減少傾向を示した。一方、JEG-3細胞におけるLIN28A発現をsiRNAで抑制しても、syncytin-1/-2の発現は上昇しなかった。さらに、JEG-3細胞にmiR-126阻害剤を添加することで、protein kinase AシグナルによるmiR-126の発現誘導を抑制したとき、syncytin-1/-2の発現誘導は一部抑制されたが、LIN28Aの発現にmiR-126阻害の影響は示されなかった。以上より、miR-126による栄養膜の合胞体化促進機構へのLIN28A発現制御の寄与は、小さい可能性が高い。 また、JEG-3細胞にmiR-126を過剰発現させることで、syncytin-1/-2が増加することに加え、別の栄養膜モデルであるBeWo細胞にmiR-126を過剰発現させることで、多核化した細胞を観察できた。さらに、ラット胎盤におけるmiR-126の発現は、合胞体層によって構成される迷路部で最も高かった。これらからもmiR-126は、栄養膜細胞の合胞体化促進による胎盤関門形成に寄与することが示唆された。 一方、ラット胎盤において内分泌能を持つ細胞で構成される着床連結帯では、miR-126がほとんど検出されなかった。ヒトでは合胞体栄養膜細胞が内分泌器官としても機能することから、ヒト胎盤特有のestriol合成に関与する遺伝子発現にmiR-126が与える影響を解析した。JEG-3細胞にmiR-126を過剰発現させると、estriol前駆体を胎盤に取り込むSLC22A11の発現が有意に上昇した。したがってmiR-126は、ヒト合胞体栄養膜の関門機能に加えて内分泌機能の獲得・維持にも関与する可能性が示された。
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