研究課題/領域番号 |
18K14929
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
鬼頭 宏彰 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (40749181)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 前骨芽細胞 / イオンチャネル / KCa3.1 / Kir2.1 / 細胞増殖 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
前骨芽細胞の細胞増殖・細胞分化は骨組織恒常性維持において重要な役割を果たしている。我々は、マウス前骨芽細胞MC3T3-E1を用いて細胞増殖・細胞分化におけるイオンチャネルの役割を検討した。これまでの検討により、MC3T3-E1細胞には中コンダクタンスCa活性化KチャネルKCa3.1が機能発現することを明らかにしている。また、生理活性物質であるビタミンDは骨恒常性において非常に重要な役割を果たすが、前骨芽細胞に対する直接作用は十分に検討されていないことから、特にKCa3.1の機能への影響を検討した。本検討において、ビタミンD刺激によりKCa3.1の発現および活性が抑制されることで前骨芽細胞の細胞増殖を一部抑制することが明らかとなった。 細胞分化に対するイオンチャネルの役割を検討したところ、骨芽細胞への分化成熟過程において内向き整流性KチャネルKir2.1の発現が亢進し、骨芽細胞分化の制御に関連することが示された。昨年度は培養細胞を用いた細胞分化への寄与を明らかにしたため、今年度はマウス胎児より単離した中足骨を用いた軟骨内骨化モデルを用いてKir2.1の骨組織における役割を検討した。その結果、培養細胞実験と同様にKir2.1阻害により中足骨の石灰化が有意に抑制されたことから、組織レベルにおいても骨芽細胞の成熟にKir2.1活性が大きく寄与することが示された。 以上の結果より、KCa3.1及びKir2.1は骨芽細胞増殖及び細胞分化の制御において重要な役割を果たすことから、骨形成制御を目的としたイオンチャネル創薬の標的分子としての可能性を検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前骨芽細胞、骨芽細胞を含む骨芽細胞関連細胞の細胞増殖は骨形成において重要な役割を果たしていると考えられている。これまでの検討により、KCa3.1がマウス前骨芽細胞MC3T3-E1の細胞増殖を正に制御することが明らかになった。今検討において骨恒常性の維持に不可欠なホルモンであるビタミンD刺激下でのKCa3.1の役割を検討したところ、ビタミンD刺激によりKCa3.1の発現および活性が低下することで前骨芽細胞の細胞増殖が抑制されることを見出した。KCa3.1の発現抑制メカニズムを解析したところ、KCa3.1発現制御因子であるAP-1の構成因子であるFra-1とヒストン脱アセチル化酵素HDAC2の発現変動が関与することを明らかにした。 骨芽細胞の成熟には、骨芽細胞分化も重要なプロセスである。これまでの検討から骨芽細胞分化に伴い、内向き整流性カリウムチャネルKir2.1の発現が亢進することを示してきた。今検討では骨組織レベルでのKir2.1の役割を検討するために、マウス胎児中足骨を用いた軟骨内骨化モデルを用いて検討したところ、Kir2.1が骨組織の石灰化にも大きく寄与することが明らかとなった。現在、骨芽細胞分化によるKir2.1の発現亢進機構を解明するために、miRNA解析などの転写後修飾に注目して検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続きMC3T3-E1における細胞周期依存的なイオンチャネル活性をより詳細に検討することで、細胞周期進行におけるKCa3.1の寄与を明らかにする。細胞周期同調培養により各細胞周期におけるKCa3.1膜電流、Ca2+動態、静止膜電位、イオンチャネル発現を比較することで、KCa3.1活性による細胞周期進行への寄与を解明したい。さらに、KCa3.1の細胞周期依存的な発現変動のメカニズムを明らかにするために、KCa3.1転写制御因子であるAP-1や負の制御因子であるREST等の細胞周期依存的な発現変動を検討する。 細胞分化に関わるKir2.1のmiRNAを介したKir2.1 mRNAの分解機構についても検討することで、骨芽細胞分化におけるKir2.1発現亢進機構について明らかにする。Kir2.1の発現制御に関わるとの報告があるmiRNAから順次解析を開始しており、骨芽細胞分化におけるKir2.1の発現性後に関わるmiRNAを同定する。 細胞増殖・分化の制御におけるCa2+シグナルの役割を明らかにするために、骨芽細胞が分泌するサイトカインや細胞間因子を用いてKCa3.1やKir2.1への影響を検討する。特に骨芽細胞の産生するインスリン様成長因子(IGF)や線維芽細胞成長因子(FGF)の発現変化や各因子に対する感受性変化に注目し、骨機能制御に関連する生理活性物質とイオンチャネル活性との関連を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により、2020年3月に開催される予定であった学会が相次いで紙面発表扱いとなり、旅費が予定を下回ったため次年度使用額が生じた。 次年度使用額の使用計画としては、内向き整流性カリウムチャネルの発現制御機構の解明のためにmiRNA解析の消耗品を購入する予定である。
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