研究課題/領域番号 |
18K14931
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
津村 遼 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 研究員 (90785586)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 抗体抗がん剤複合体(ADC) / 組織因子(TF) / Linker / 遺伝子改変マウス / マウス膵がん細胞株 / 腫瘍間質 |
研究実績の概要 |
【実施内容】(i)抗マウスTF-ADCの最適化と(ii)動物評価モデルの作製を行った。 (i)3つのラット抗マウスTF抗体から本研究課題に用いる抗体の選定を行った。殺細胞効果試験及び生体内動態試験により、no.1157が最も有望であった。次に2種類のLinker化合物の比較検討をin vitroにて行った。1種目として抗体の1つのチオール基にマレイミド基を介して結合する様式のLinker化合物(maleimide based conjugation; MC)、2種目として抗体の2つチオール基を架橋してジスルフィド結合により結合する様式のLinker化合物(bis-alkylating conjugation; bisAlk)を用いた。作製した2種類の抗マウスTF-ADCは同等の細胞結合性及び内在化効率、薬剤放出効率、殺細胞効果を示した。 (ii)膵がんを自然発症する遺伝子改変マウスからマウス膵がん細胞株の樹立を行った。また、樹立した細胞株のマウスTF強制発現株の作製も行った。作製した2種類の細胞株は、既存の5つのヒト膵がん細胞株よりも有意に腫瘍間質に富む腫瘍を形成し、腫瘍間質細胞におけるマウスTF発現も確認された。 【意義と重要性】本課題の目的は、TF陽性のがん細胞及び腫瘍間質細胞を認識する抗マウスTF-ADCの有用性を評価・考察することである。そのために上記(i)及び(ii)を当該年度にて行った。(i)は抗マウスTF-ADCを作製する上で最適な抗体やLinker化合物を選定し、抗TF-ADCの有用性を過小評価しないために行った。一方で、(ii)はヒトの膵がん組織を模倣した腫瘍間質に富むモデルを作製することで、抗TF-ADCの有用性を過大評価せずに、正確な作用機序を明らかにするために行った。これらは最終的に得られた結果が臨床的妥当性を持つかどうかを左右する重要な作業過程と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書において計画した(i)抗マウスTF-ADCの最適化、(ii)動物評価モデルの作製、(iii)in vivoにおける治療効果・副作用の3つの項目の内、当該年度では(i)と(ii)を実施した。 (i)において、抗体クローンの選定、及びLinker様式のin vitroにおける比較検討を行った。前者に関しては3つの抗体クローンから本研究課題に用いる抗体クローンを選定済みである。一方、後者に関してはin vitroにおける比較検討において、従来用いられるLinker様式(MC)と安定性に優れると期待されるLinker様式(bisAlk)の同等性が示唆されたため、今後実施する予定である(iii)の項目において再度比較検討を行う。 (ii)において、膵がんを自然発症する遺伝子改変マウス(KrasG12D/+; Trp53R172H/+; Ptf1a-Cre)から、腫瘍間質に富む腫瘍を形成するマウス膵がん細胞株を樹立し、同細胞株のマウスTF強制発現株も作製した。樹立した2種の細胞株により形成された腫瘍は、既存のヒト膵がん細胞株を用いて作製した腫瘍よりも腫瘍間質に富むことが示唆された。また、ヒト膵がん組織を組織学的に模倣すると報告されている上記遺伝子改変マウスの膵腫瘍組織と比較して、樹立した細胞株によって形成された腫瘍組織は、同等の腫瘍間質領域を保持している事が示唆された。さらに同腫瘍組織では、がん細胞のみではなく腫瘍間質細胞においてもマウスTFが陽性となる事が示された。今後実施する予定である(iii)の項目では、樹立した2種類の細胞株を用いてマウスモデルを作製し、抗TF-ADCの有用性を評価する予定である。 現在、上記2種類のマウス膵がん細胞株をヌードマウスに皮下移植して、(i)で最適化した抗マウスTF-ADCsの治療効果検討を行っている。同実験は研究計画(iii)に該当する内容である。
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今後の研究の推進方策 |
申請書において計画した(iii)in vivoにおける治療効果・副作用の評価を行う。細分化項目として、(a)皮下移植モデルマウスを用いた治療実験、(b)膵同所性移植モデルマウスを用いた治療実験及び生存期間の検討、(c)各治療実験における副作用の評価、(d)抗マウスTF-ADCの体内動態及び腫瘍分布、(e)抗マウスTF-ADCが腫瘍組織に及ぼす影響、の5項目を実施する予定である。 (a)(b)に関して、まず選定した抗マウスTF抗体及びコントロール抗体、2種類のLinker様式を用いて計4種類のADCsを作製する。次に、樹立した2種類のマウス膵がん細胞株を用いて作製した皮下移植モデルマウスにおいて、上記ADCの投与を行い、抗腫瘍効果を判定・評価する。その際、より優れたLinker様式の選定を行うと同時に、抗マウスTF-ADCの至適投与量の検討も行う。さらに、同所性移植モデルマウスにおいては、最も有望な抗マウスTF-ADCの剤形を用いて抗腫瘍効果を判定すると共に、抗マウスTF-ADC投与がモデルマウスの生存延長に寄与するか否かを明らかにする。 (c)に関して、上記治療実験と並行して各ADC投与による体重増減を計測し、副作用の有無を判定する。同時に、血球毒性や肝毒性、血液凝固系に及ぼす影響も調査する予定である。 (d)(e)に関して、抗マウスTF-ADCの蛍光物質標識、あるいは搭載した抗がん剤であるmonomethyl auristatin Eを検出することで、抗マウスTF-ADCの生体内・腫瘍内分布を明らかにする。さらに、治療実験後の腫瘍組織を用いた蛍光免疫組織染色により、腫瘍組織における抗マウスTF-ADC投与の影響を調査する。 最終的に、当該年度に行った検討も加味して総合的に考察し、抗TF-ADCの有用性を評価・考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が少額のため、消耗品等への使用が困難であったから。
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