研究課題/領域番号 |
18K14934
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
阿部 尚仁 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (70725754)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオプロスペクティング / カヤツリグサ科植物 / 動脈硬化 / 抗炎症作用 |
研究実績の概要 |
2014年10月12日に名古屋議定書が発効し,日本では現在国内の対応措置について議論が行われている.それに伴い,今後天然物化学研究を遂行する上で,海外遺伝資源を利用することは非常に困難な状況になる.しかし,もとより日本は天然植物資源が豊富であり,国内に約7500種の植物が自生している世界でも有数の資源大国である.国内に自生する植物のうち約25%は本国固有の植物種と考えられており,これまではこの豊かな植生を利用することで日本が世界の天然物化学研究をリードしてきた.一方で,現在は国内を見回しても植物資源から意欲的にシード探索を指向している学術研究は数例しかなく,骨太の探索基礎研究を行うべく,申請者はあらためて国内の植物資源を見直し,バイオプロスペクティングを指向した未利用植物資源の開発を目指す研究を行っている.本研究は,かつて世界的にも盛んに行われていたが,近年国内では他に例をみないケモタキソノミーの基礎研究である.本研究の対象であるカヤツリグサ科植物は,日本国内の植物資源として各地に数多く自生しているにも関わらず,成分研究は数例であり本科植物の約0.2%しか研究対象になっていない未利用資源である.この根本たる原因は,植物分類において,本植物は果胞や鱗片の形態など微細な形質で分類されることが多く,分類が非常に困難な植物群であることが挙げられる.2009年にMuasyaらによって行われた本科植物の分子系統研究においては,特にCyperus属に分類される特定の種が,いたる所に散在する結果となっており,この事は今後のさらなる分子系統研究により属が再編されることを示唆している.したがって,本科植物群の化学多様性を明らかにすることは,今後の生物活性試験への応用に対する基盤研究となるとともに植物分類学への一助となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに主として以下に示す課題を実施してきた. <カヤツリグサ科植物の収集>これまでに収集した約15属128種のカヤツリグサ科植物は全て本州に自生していた植物群であったが,今回新たに学外の研究者から協力を得て種子島(鹿児島県)での植物採集を行った.その結果新たに27種のカヤツリグサ科植物を収集し,うち10種はこれまで採集歴のない植物であった.またバイオプロスペクティングを指向する上で必要不可欠な他科の植物についても同地にて採集を行い,約37科120種の植物素材を得た. <成分の単離・構造決定>概要に示したCyperus(カヤツリグサ)属植物について詳細な成分検索が可能なレベルで収集できた素材については,各種クロマトグラフィー (SiO2 CC,ODS CC, Sephadex LH-20, semi-preparative HPLCなど) を用いることにより化合物の単離精製を行っており、得られた化合物について各種機器スペクトルをそれぞれ測定し解析し,単離化合物の構造決定を行ってきた.さらには、これまで成分研究が行われていないFimbristylis(テンツキ)属植物の成分研究を行っている. <動脈硬化症予防薬の探索>植物抽出エキスについて動脈硬化症発症のキープロセスであるホルボールエステル (TPA) 誘導性の単球系細胞 (THP-1細胞) からマクロファージへの分化を抑制するエキス群の探索を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,申請者の天然物化学的なアプローチに植物分類学的なアプローチも加え,カヤツリグサ科植物の化学多様性を明らかにするとともに動脈硬化症予防薬探索の基盤構築を行う.今後の研究期間に主として以下に示す課題を実施する. <植物化学成分の分析および比較>収集した植物素材をメタノールに浸し抽出し濃縮することでエキスを調製する.エキスについて分析HPLC用サンプルの前処理技術,分析方法およびNMR試料調整法を最適化することを目的とし,全てのエキスにおいて分析可能なメソッドの開発を行い,n=3からなる分析試料を作成する.また,1H-NMR,HPLCおよびLC/MSを用いたフィンガープリントの収集・解析を行う.これらのデータを解析することにより,カヤツリグサ科植物のバイオマーカー開発によるケモタキソノミー研究の基盤構築,および多面的な化学系統の解明が可能になると考えている. <成分の単離・構造決定> 得られた化合物について,各種機器スペクトルをそれぞれ測定し解析する.これにより植物種に特異的に存在する(あるいは普遍的に存在する)化合物を解明する.また含有化合物を比較検討することで,カヤツリグサ科植物中のバイオマーカーを開発する. <動脈硬化症予防薬の探索>探索研究と平行して行っている単離構造決定作業で構造が明らかになった化合物について,免疫反応において中心的な役割を果たすNF-kBの調節作用やマクロファージ由来の炎症性サイトカイン (TNF-a,IL-1, IL-6) の産生抑制をターゲットにしたスクリーニングを行い,抗炎症作用の作用機序を明らかにすることを計画している。バックアッププランとして標的タンパクをアルドケト還元酵素 (AKR) に限定してその阻害剤の探索や抗癌作用を有する化合物の探索も行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を計画していた備品(島津製作所 LCワークステーション PCセット Lab solution LC Multi LC-PDA)が,交付の減額により購入することが出来なくなった為,次年度使用額に変更が生じたが,他の消耗品についてはおおむね計画していた通りに使用できている.次年度については,当初計画していた消耗品費および研究成果発表用の旅費に加えて,新たに生化学分析用の機器を購入する予定である.
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