腸内細菌による生薬成分の代謝は、漢方薬の薬効発現に密接に関与していると考えられている。漢方薬や生薬には様々な配糖体成分が含まれており、その中には糖の炭素とアグリコンの炭素が直接C-C結合したC-配糖体も存在する。研究代表者はこれまで、生薬カッコンに含まれるイソフラボンC-配糖体puerarinを用いて、腸内細菌が産生するC-配糖体代謝酵素に関する研究を行ってきた。その結果、puerarin C-配糖体代謝反応は中間体(3"-oxo-puerarin)を経由する2段階の代謝反応であることを明らかにし、中間体をアグリコンに代謝する酵素(DgpB-DgpC複合体)を同定している。 本研究課題では、puerarinを3"-oxo-puerarinに代謝する酵素の同定や、puerarin代謝酵素の酵素逆反応を利用したC-グリコシル化反応について検討を行った。具体的には、puerarinを代謝する腸内細菌から、3-oxo-glucoseを利用してpuerarinの糖3位ヒドロキシ基を酸化し、中間体である3"-oxo-puerarinを生成する酵素DgpAを同定した。また、DgpAはglucose 存在下、3"-oxo-puerarinをpuerarinに還元することから、可逆反応を触媒する酵素であることを明らかにした。 また、puerarin代謝酵素(DgpA、DgpB-DgpC複合体)を利用したC-グリコシル化反応(C-配糖体の合成)についても検討した。具体的には、基質としてdaidzeinを用い、種々の条件下で酵素反応を行い、puerarinの生成を確認した。また、基質としてdaidzein以外の各種イソフラボン類を使用し、酵素の基質特異性を検討した。 C-配糖体は、その特徴的な構造と代謝安定性から、創薬科学分野でも注目される化合物群である。puerarin代謝酵素がC-グルコシル化反応を触媒したことから、本酵素を利用した物質生産への応用が期待される。
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