研究実績の概要 |
昨年度までの研究から、漢方薬の加味温胆湯が大脳皮質前頭前野の細胞外セロトニン量を一過的に増加させることを明らかにしてきた。また、加味温胆湯の細胞外セロトニン量増加作用に構成生薬のチクジョが関与するもののチクジョ単独では細胞外セロトニン量増加作用を示さないことを見出した。こうした結果から、チクジョと他の構成生薬との組み合わせが重要であることが示唆された。そこで本年度は、加味温胆湯が細胞外セロトニン量を増加させるメカニズムの詳細を明らかにすることを目指した。まず、セロトニンの取り込みを簡便に評価するために、セロトニントランスポーターを強制発現させた培養細胞を作製した。現在、作製した細胞を用いて解析を行っているところである。 また、漢方薬の作用機序を明らかにするための別のアプローチとして、中枢神経系疾患治療薬の標的となっている各種受容体(ドパミンD1, 2、セロトニン5-HT1A, 2A、ノルアドレナリンα1, 2、ヒスタミンH1、アセチルコリンM1)に対する漢方薬および含有成分の作用について解析を行った。各種受容体とレポーター遺伝子を導入した培養細胞を作製し、精神症状に有効とされる漢方薬の作用を評価したところ、多くの漢方薬において5-HT1A受容体への部分アゴニスト活性が確認された。また、抑肝散の構成生薬のトウキやセンキュウに含まれる成分であるフェルラ酸が、5-HT1A受容体部分アゴニスト活性を示すこと、5-HT1A受容体を介して抗不安様作用、抗精神病様作用を示すこと、5-HT2A受容体には作用しないことを明らかにした。 本研究を通して、加味温胆湯が細胞外セロトニン量を増加させること、精神症状に有効とされる漢方薬の多くが5-HT1A受容体への活性を示すことが明らかとなった。こうした結果から、多くの漢方薬がセロトニン神経系に作用して精神症状を改善している可能性が考えられた。
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