緩下作用を示す漢方薬として頻用される大黄甘草湯は、下剤効果の発現に個人差のあることが知られている。申請者はこの下剤効果の個人差は、食習慣による腸内細菌叢の違いが影響を及ぼすと考え、下剤効果と腸内細菌叢の変化について検討を行ってきた。その結果、便秘症患者と腸内細菌叢が類似している高炭水化物および高脂肪飼料摂取下の腸内細菌叢において大黄甘草湯の下剤効果は促進され、その効果は大黄のアントラキノン成分であるrhein 8-O-β-D-glucopyranosideがEnterobacteriaceaeを増加させることで発揮する作用であることを明らかにした。一方で、高繊維飼料摂取下の腸内細菌叢において、大黄甘草湯の下剤効果は反対に抑制された。 そこで、高繊維飼料摂取下における大黄甘草湯の下剤効果抑制作用に、どの生薬および成分が関わるか探索を行った。その結果、大黄投与群の下剤効果は投与翌日から有意に抑制され、大黄甘草湯と同様の結果を示した。そこで、大黄熱水抽出物についてMCI gel CHP-20Pを用いて水-メタノールで分画し、センノシドAの下剤効果に及ぼす各画分の影響を評価した結果、下剤効果の抑制に関わる成分画分を特定した。さらに、抑制作用を示した画分に含まれる成分の同定を試みたところ、抑制に関与する成分群を特定し、これらの成分はセンノシドAの下剤効果を有意に抑制した。 高繊維飼料摂取下における大黄甘草湯の投与前後の腸内細菌叢の構成変化について解析したところ、大黄甘草湯の投与によりVerrucomicrobiaceaeの減少が認められた。しかし、大黄の下剤効果抑制成分の投与によりVerrucomicrobiaceaeの存在比に大きな変化を認めなかった。そのため、高繊維飼料摂取下における大黄甘草湯の下剤効果抑制作用は腸内細菌叢の変化を介して生じる作用であるか、現在慎重に検討を進めている。
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