本研究では、キレート形成に起因する薬物相互作用に関する新たなメカニズムの解明と、相互作用時の金属吸収亢進のリスクを検討することを目的に、ニューキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬と、アルミニウムやマグネシウムなどの金属カチオンを用いて、両者の細胞単層膜透過性を評価した。 本年度は、P糖タンパク質(P-gp)過剰発現細胞とその親細胞を用いて、ニューキノロン系抗菌薬の一つであるレボフロキサシンとアルミニウム併用時の両者の透過性を定量的に評価した。その結果、P-gp過剰発現細胞において、レボフロキサシンはアルミニウム存在下、非存在下のいずれにおいても、basal to apical優位な方向性輸送がみられた。一方で、親細胞では輸送の方向性はみられなかった。また、いずれの細胞においてもレボフロキサシン存在下でのアルミニウムの輸送に方向性は認められなかった。両者併用時のレボフロキサシン、アルミニウムのnet efflux ratioはそれぞれ2.48、0.94であった。以上より、レボフロキサシン-アルミニウムキレート体はP-gp基質ではないことが示された。つまり、レボフロキサシンとアルミニウムを併用した際には、P-gpによるキレート体の排出は期待できず、アルミニウムは脳へ移行する可能性が高いことが示唆された。 以上のように、キレート体の細胞単層膜透過に対するトランスポーターの寄与に対し、排出トランスポーターのP-gpについては評価することができた。吸収トランスポーターについては引き続き検討していく予定である。
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