研究課題/領域番号 |
18K14963
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
河渕 真治 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (70747237)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腎障害 / 母集団薬物動態解析 / S-1 / オキサリプラチン |
研究実績の概要 |
スペシャルポピュレーションへの抗がん剤の初期投与量の決定やレジメン施行中の用量調節などの判断について、客観的な定量数値によるエビデンスを得ることを目的とし、今年度は、以下の研究結果が得られた。 1. 腎虚血再灌流法にて腎障害モデルラットを作製し、虚血時間を調節することで軽度・重度腎障害モデルを作製した。各モデルラットにS-1投与後の体内動態について検討した結果、S-1投与後のテガフール(FT)の最高血漿中濃度は腎障害の重篤度に伴って減少し、AUCについても腎障害に伴って低下した。一方、5-フルオロウラシル(5-FU)の血漿中濃度は極めて低値を示し、クレアチニンクリアランスとの関連性が示唆され、用量設定に有用な基礎的知見が得られた。 2. 大腸がん化学療法SOXレジメンでは、S-1はオキサリプラチン(L-OHP)と併用される。そこで、上記と同様、腎障害モデルラットにおけるL-OHPの体内動態を検討した結果、重度モデルで血漿中濃度の上昇を認められ、血清中クレアチニン濃度とL-OHPクリアランスとの関連性を見出すことができた。さらに、薬物投与後の血漿中L-OHP濃度を用いて母集団薬物動態(PPK)解析を行った結果、血漿中クレアチニン濃度とBUNはL-OHPクリアランスの共変量であることが示唆され、血清中クレアチニン濃度から血漿中L-OHP濃度をシミュレーションすることに成功した。これらの結果から、血清中クレアチニン濃度をモデルに組み込んだPPKはL-OHP投与量の個別化を実現することができる有用なツールであることが示唆された。 3. L-OHP投与後の白血球、好中球、リンパ球数の経時的変化を記述可能なPK-PDモデル構築に成功し、このモデルは抗がん剤投与後の血液毒性の発症時期及び重篤度を予測可能であり、投与設計の個別化に有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の研究進捗状況は、当初の計画に基づき、おおむね順調に進展している。今年度は、腎虚血再灌流の施術において虚血時間を調整することで軽度・重度腎障害モデル動物の作製に成功し、オキサリプラチンの体内動態に関する検討では、当初最終年度に予定していた母集団解析まで遂行することができた。現在、当初の計画に基づき、腎障害併発大腸がんラットにおけるS-1、L-OHPの体内動態について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた腎障害時におけるS-1ならびにL-OHPの体内動態変動に関する知見に基づき、当初の計画に基づいて大腸がん病態下での検討を進めていく。さらに、臨床の投与方法に準拠し、5-FU長時間持続点滴ならびにS-1反復投与後の体内動態変動についても検討を進め、変動要因並びにそれを反映するバイオマーカーの探索を行う。同時に、生活習慣病モデル動物を用いた薬物動態学的検討についても研究を進める。現在、高脂肪食給餌による生活習慣病モデルラットの作製中である。最終的に、得られたデータから血漿中・腫瘍中薬物濃度と抗腫瘍効果との関連性を記述可能なPK-PDモデルを構築し、投与設計へと応用可能な情報を得る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験動物を用いた予備検討について、研究を進めていく中で検討項目数を減らすことができたために、予定していた研究消耗品について費用を抑えることができた。物品費の一部を学会発表や論文発表等に必要な経費に充てたが、次年度使用額が生じた。これについては、次年度の腎障害モデル動物作製に必要な動物ならびに実験試薬等の物品費に充てる予定である。
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