今年度は、スペシャルポピュレーションに属する患者に対するバイオマーカーを用いた抗がん剤の投与設計の実現を目指し、数理学的モデル手法用いて、抗がん剤の代謝酵素活性が及ぼす抗腫瘍効果への影響を検討した。得られた知見は以下の通りである。 1.5-フルオロウラシル(5-FU)のプロドラッグであるカペシタビンは、肝臓および腫瘍中の代謝酵素により5-FUへと変換されるが、これらの代謝酵素活性に基づく投与設計は行われていない。そこで、大腸がんモデルラットにカペシタビンを14日間反復投与し、得られたカペシタビンおよび代謝物の血漿中濃度と代謝酵素活性を用いて、生理学的(PBPK)モデルを構築した。また、腫瘍体積データも用いて、カペシタビン投与後の腫瘍体積推移も予測可能な薬物動態-薬力学的(PBPK-PD)モデルの構築も試みた。その結果、構築したPBPK-PDモデルによる腫瘍体積の推定値は実測値とほぼ同じであった。これらの結果から、薬物代謝酵素活性の値とPBPK-PDモデルを用いることで、酵素活性を指標とする投与設計ならびに治療効果予測が可能であることが示唆された。 2.生活習慣病併発時における5-FU代謝酵素活性とバイオマーカーについて検討した。その結果、5-FUの代謝酵素dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)活性を反映する間接的バイオマーカーである血漿中dihydrouracil/uracil比は、高脂肪食誘発生活習慣病モデルラットと正常ラットで変化していなかった。また、生活習慣病モデルラットにおける5-FU急速静脈内投与後のAUCは、正常ラットの1.1倍と同程度であった。したがって、生活習慣病併発による5-FUの代謝酵素活性には変化がないことが示唆され、このことによる5-FU投与量変更の必要はないと考えられた。
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