昨年度までの検討で、典型的な肝障害モデルである四塩化炭素(CCl4)誘発性肝障害モデルマウス、薬物誘発性肝障害モデルとしてアセトアミノフェン(APAP)誘発性肝障害モデル、カルバマゼピン(CBZ)誘発性肝障害モデルマウスにおいて共通してPGE2の代謝酵素である15-PGデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)の肝臓における発現と活性が低下することを明らかにした。今年度は、肝障害に伴う肝組織中および血中のPGE2およびその代謝物量の変動をLC-MS/MSにより検討した。その結果、すべて検討したすべての肝障害モデルマウスにおいて肝組織中および血中のPGE2量が顕著に増加することを明らかにした。また、肝組織中および血中のPGE2量は肝臓における15-PGDHの活性や発現量とよく相関したことから、肝障害時のPGE2動態調節因子として15-PGDHが重要な役割を果たすことを明らかにした。さらに昨年度までにOATP2A1が肝血管内皮細胞に発現することを組織免疫染色法により示唆してきたが、OATP2A1はヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC)において細胞外PGE2の取込みに寄与する。またAPAP誘発性肝障害では肝障害に先行して微小血管障害が惹起される。そこで、肝障害時のOATP2A1の役割の一つを明らかにする目的で、APAPによるHUVEC傷害に対するOATP2A1遺伝子発現抑制の影響を検討した。しかし、OATP2A1発現が低下してもAPAPによるHUVEC傷害に変化はみられなかったことから、肝障害時の血管内皮細胞傷害の惹起にOATP2A1は寄与しないことが示唆された。 以上の検討結果より、種々の肝障害時には肝血管内皮細胞に発現する15-PGDHの発現量が著しく低下することにより、肝保護に重要とされるPGE2の肝組織中濃度が上昇することを初めて明らかにした。
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