研究課題/領域番号 |
18K14969
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
渡邊 政博 就実大学, 薬学部, 講師 (10758246)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AGEs / 炎症性サイトカイン / DAMPs / 慢性炎症 |
研究実績の概要 |
社会の超高齢化に伴い,健康寿命を縮める要因であるメタボリックシンドローム関連疾患への対策が重要課題となっている.近年,これらの疾患に共通する基盤として,内因性の炎症反応の慢性化(慢性炎症)が見出され,そのメカニズムの解明が強く求められている.過去に我々は,生体分子の糖化により生成する終末糖化産物(AGEs)の性状を解析するなかで,AGEsが特定の炎症性サイトカインと結合し,その作用を変化させる現象(AGEsによるサイトカイントラッピング)を発見した.この現象を通じてAGEsは,サイトカインによる炎症反応の制御を撹乱し,慢性炎症の成立を誘導している可能性が考えられる.そこで本研究において我々は,AGEsと結合するサイトカインのさらなる探索を試み,AGEsによるサイトカイントラッピングが炎症反応に与える影響の全容の解明を試みる.前年度は,AGEsによるサイトカイントラッピングが炎症反応に与える影響を解析するためのプラットフォームの構築を実施した.本年度は,AGEsと相互作用するサイトカイン類の網羅的スクリーニングを実施した.本研究では,サイトカイン類を搭載したプロテインアレイに対して蛍光標識したAGEsをプローブとして用いることにより,AGEsと相互作用する新規分子の検出を試みた.その結果,AGEsと相互作用する分子と相互作用しない分子を見出すことに成功した.これらの結果は,過去に別の手法により検討した複数の分子のAGEsとの相互作用情報と一致していた.さらに,昆虫細胞発現系により調製したリコンビナント分子を用いて,プロテインアレイ解析結果の一部について検証を行い,同一の結果が得られることを確認した.以上より,本研究により見出されたAGEsと相互作用する分子は,サイトカイントラッピングの対象となる新規分子である可能性が強く示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテインアレイ解析については,キット製品を使用したため,想定通り実施することができた.一方で,アレイ解析結果の検証に用いるリコンビナント分子について,従来当研究室で用いてきた大腸菌発現系により調製した場合,十分な検証が行えない可能性を見出していた.このため,想定される問題点を解決する手法として,昆虫細胞発現系を選択した.本法は,当研究室においてはじめて使用する手法であることから,系に確立にいたるまで時間を要したものの,目的のリコンビナント分子を調製することができた.このリコンビナント分子を用いてアレイ解析結果の検証を行う際にも技術的な問題が生じたものの,別の手法を新規に構築することにより当初の目的を達成することができた.これらのことから,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,アレイ解析を行ったことにより,解析対象とすべき候補分子が非常に多く見出された.既に,これらの分子の一部について,AGEsによりサイトカイントラッピングが生じるのか否かについて検証を進めており,細胞系を用いた検討により本現象の新たな側面を見出すことができた.来年度は,解析対象の分子について順次,in vitroでの相互作用の検証と,細胞系を用いた生理機能への影響について検討を進めていく予定である.なお,これらの解析を進める上で,細胞系としてこれまで用いてきたRAW264.7細胞以外を用いる必要が生じる可能性がある.この場合には,初年度に実施した方法を用いて,ゲノム編集により受容体ノックアウト細胞を構築することを試みる.また,AGEs化動物モデルの構築についても並行して実施していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,アレイ解析の実施とその結果の検証を進めた.結果の検証に用いるためのリコンビナント分子を調製する手法の新規構築に比較的時間を要したため,本年度は解析に着手できなかった有力候補分子が残っている.これらの分子については,来年度より解析を行っていくことになる.また,AGEsと候補分子の相互作用を解析する系として,より安価に実施できる手法の導入に成功した.これらの研究の進展状況に基づく解析内容の実施時期の変更と,試薬・機器等の購入にあたってキャンペーン等を活用したことにより次年度使用額が生じた.これについては,次年度以降に実施する解析等において利用する予定である.
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