過去に我々は,生体分子の糖化により生成する終末糖化産物(AGEs)の性状を解析するなかで,AGEsが特定の炎症性サイトカインと結合し,その作用を変化させる現象(AGEsによるサイトカイントラッピング)を発見した.本研究において我々は,AGEsと結合するサイトカインのさらなる探索を試み,AGEsによるサイトカイントラッピングが炎症反応に与える影響の全容の解明を試みる.これまでに,この現象が炎症反応に与える影響の解析系を構築した.さらに,プロテインアレイを用いてAGEsと相互作用するサイトカイン類の網羅的スクリーニングを実施した.本年度は,スクリーニングにより見出された分子についての詳細な解析を試みた.アレイ解析において解析対象となった分子のうち,AGEsとの相互作用が最も強い分子としてHigh mobility group box-1 (HMGB1)が見出された.HMGB1は,AGEsと類似したメカニズムにより起炎分子として作用するダメージ関連分子パターン(DAMPs)の代表例である.はじめに,アレイ解析の結果を検証するために,リコンビナント分子を用いたNative PAGE解析を行ったところ,HMGB1とAGEsが相互作用することが確認された.続いて,この相互作用が各分子の作用に与える影響を検討するために.外来性の起炎分子であるリポ多糖(LPS),HMGB1,AGEsの3者をマクロファージのモデル細胞であるRAW264.7に与え,炎症性サイトカインTNFの発現レベルを指標として細胞応答を評価した.その結果,それぞれ単独では細胞応答を引き起こさない量の各分子を同時に細胞に与えると,細胞応答が強く誘導されることを見出した.また,初年度に構築した受容体欠損細胞を用いて,この現象の責任受容体を探索したところ,TLR4とRAGEが関与していることを見出した.
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