研究実績の概要 |
妊娠時のてんかん治療では、発作が母児へ及ぼす影響と、抗てんかん薬によるリスクの両方を考慮する。バルプロ酸 (VPA) は、認知機能低下や自閉症といった出生児の脳機能に影響する可能性が示されている抗てんかん薬である。本研究では、胎児への物質輸送に重要な役割を担う胎盤に着目し、「I. VPAにより発現変動する胎盤トランスポータの探索とメカニズム解明」「II. VPAの胎内曝露に寄与する因子の探索」「III. VPAによるリスクを低減させる物質の探索」を行う。本年度は、Iの課題を中心として、in vivo (妊娠ラット) やin vitro (胎盤細胞株) における検討を進めた。 妊娠日齢9日 (GD9) およびGD16の雌性ラットにVPA (400 mg/kg) を4日間連続経口投与し、GD13およびGD20の胎盤における8種類の排出系および14種類の取り込み系トランスポータのmRNA発現変化を解析した。排出系トランスポータについては、VPAはGD13におけるAbcc1, 5 発現を増大させAbcc3発現を減少させること、GD20におけるMdr1a発現を増大させAbcc1, 4およびMdr1b発現を減少させることが示された。取り込み系トランスポータについては、VPAはGD13におけるSlc7a8, 22a5, 29a1, Slco2a1, 4a1発現を増大させること、GD20におけるSlc22a3発現を増大させSlc7a5, 22a4, 29a1, 46a1, Slco2a1, 4a1, Forl1発現を減少させることが示された。これらの結果から、VPAは胎盤における各種トランスポータ発現量を変化させること、その変動は妊娠時期において傾向が異なる可能性が示された。また、in vitroにおいて、FORL1およびSLC46A1の発現変化にはHDAC阻害作用が関与する可能性を示した。
|