研究実績の概要 |
妊娠時のてんかん治療では、発作が母児へ及ぼす影響と、抗てんかん薬が胎児へ及ぼすリスクの両方を考慮する必要がある。バルプロ酸 (VPA) は、認知機能低下や自閉症といった出生児の脳機能に影響する可能性が示されている抗てんかん薬である。一方、様々な抗てんかん薬が承認されているものの、妊娠期における情報が十分でない薬剤も存在する。本研究は、薬剤による児の脳機能障害の軽減を目指し、VPAをはじめとした抗てんかん薬が胎盤トランスポータ発現に及ぼす影響ならびに輸送機構を明らかにすることを目的とした。 昨年度までに、VPAは妊娠Wistarラットの胎盤における各種トランスポータ発現量を変化させること、その変動は妊娠時期によって傾向が異なる可能性を示した。本年度は、妊娠可能年齢女性に選択されることが多いラモトリギン (LTG) についても着目し、胎内曝露に寄与する因子の探索を行うことにした。LTGの胎盤由来細胞への取り込みは、4℃条件に比較して37℃において高く、輸送速度は高濃度において飽和したことから、 輸送に担体の関与が示唆された。また、LTG輸送は、chloroquine, imipramine, quinidine, verapamil等の薬物により阻害された。これら薬物の特徴として、構造中に3級アミンを有し、脂溶性が高く、生理的pHでカチオンであることが考えられた。しかし、種々の化合物やsiRNAを用いた検討、細胞およびヒト満期胎盤の発現レベルの解析により、SLC22A1-5等の有機カチオン輸送担体は関与しないことが明らかになった。今後も更なる研究を進め、抗てんかん薬のリスクの低減に向けた方策の構築に繋げたい。
|