研究実績の概要 |
本研究の目的は、難治性てんかんに対し有用性が報告されているケトン食による薬物動態変動の分子生物学的影響および薬物速度論的影響を明らかにし、ケトン食療法時の安全で有効な薬物投与計画の構築である。申請者らは経腸栄養剤により薬物代謝酵素やトランスポータの発現が変動することを見出し、栄養療法や食事療法により薬物動態変動が起こりうる可能性を提起した。さらに、高脂質食による薬物代謝酵素発現変動の報告もある。申請者は臨床業務中、抗てんかん薬の血中濃度が有効域から中毒域まで上昇し、薬物動態変動要因としてケトン食が強く疑われる症例を経験した。本研究では「ケトン食」、「薬物代謝酵素」に着目し、ケトン食モデルラットを用いた基礎研究および臨床研究の両面から検証する。これにより、ケトン食療法による薬物動態変動の予測が可能となり、ケトン食療法時の最適な薬物投与設計や副作用発現回避に寄与することができる。 平成30年度は、ケトン食による薬物代謝酵素の発現・活性に与える影響についてモデル動物を作成し検討を行なった。コントロール群(リサーチダイエット社 (D10070802)、ケトン食群 (リサーチダイエット社(D10070801))の2群を3週間自由摂食させ、薬物代謝酵素の変動を遺伝子発現レベルで検討した。検討した薬物代謝酵素(CYP3A2, 2B1, 2C6, 2C11, UGT2B1)の肝臓における遺伝子発現レベルに有意な変動は確認できなかった。そこで、ラット肝臓ミクロソームを用いて、抗てんかん薬のフェニトインと、ケトン食療法で多く摂取される多価不飽和脂肪酸のリノレン酸をヒト血液中濃度範囲で代謝阻害試験を行ったところ、フェニトインから4’-HPPHへの代謝速度の低下を認めた。これにより、ケトン食による薬物動態変動要因の一つとして、多価不飽和脂肪酸による抗てんかん薬の代謝阻害が示唆された。
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