本研究の目的は、健康保険組合由来の診療報酬請求データ(レセプトデータ)を用いて小児感染症における抗菌薬の処方実態を記述し、乳幼児期の抗菌薬投与がその後のアレルギー疾患発生に関連するかを明らかにすることであった。近年我が国では、診療報酬データの電子化と研究応用を背景として、大規模データベースによる各種の疫学研究が可能となりつつある。本研究では、個人が正確に突合され受診歴等の追跡が可能な株式会社JMDCのレセプトデータを用いることとした。JMDCデータは、複数の健康保険組合由来の大規模レセプトデータであり、患者基本情報・傷病情報・調剤情報・施設情報などが記録され、傷病名のコーディング等がなされたデータ群である。また対象者の保険加入から離脱まで追跡が可能であり、特に小児は出生時に保険加入するため、出生コホートと捉えることができることから、本研究に適したデータ群と考えられた。
最終年度である令和2年度は、最終解析を完了し、乳児期の抗菌薬処方とアトピー性皮膚炎の診断には、若干のリスク増加の方向に関連を認めるという結果を得た。それらの関連は強くはなかったものの、乳幼児への抗菌薬投与においては留意が必要であることが改めて確認された。成果については公衆衛生学会において口頭発表を行い、現在、国際誌に英語論文を投稿中である。
今後、我が国でも、NDB等を中心とした大規模レセプトデータ、診療情報による疫学研究が進展していくことが予想され、本研究は我が国のデータベース研究の先駆的研究としても重要と考えられた。また、近年の疫学研究における「ライフコースアプローチ」の進展により、胎児や乳幼児期の環境がその後の成長・発達予後に影響することも広く知られるようになってきた。これらの観点からも、本研究は我が国のライフコース研究、小児保健医学研究におけるエビデンスの蓄積という意味で寄与できると考えられた。
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