がん化学療法において誘発される副作用の一つである味覚障害は、抗がん剤投与中の患者の約6割に現れる主要な副作用である。この味覚障害は、食事量の低下から栄養状態の悪化や患者のQOLの低下を招き、治療を継続する上で大きな影響を与えるが、その有効な予防法や治療法は確立していない。そこで本研究は、抗がん剤が味覚刺激を伝える舌咽神経や鼓索神経において神経軸索やシュワン細胞に作用し神経軸索変性や脱髄を引き起こすこと、さらにこれらの神経障害によって生じる神経伝導障害が味覚障害発生に関与するかを明らかにし、新たな治療ターゲットの探索につなげることを目的としている。 本年度は昨年度作成したシスプラチン反復投与によるモデル動物においてリックテストによる味覚感受性変化を確認した後、味覚を司る神経である舌神経を電子顕微鏡で観察し、軸索障害や脱髄について解析した。すると、軸索直径平均が減少し、さらに軸索円形度の大きい神経の割合が減少し、軸索円形度の小さい神経の割合が増加、つまり、変形した神経の割合が高くなることが明らかとなり、シスプラチン投与により舌神経変性が惹起されることが示された。この舌神経変性が惹起されたモデル動物において、舌神経と同じ末梢神経系である末梢感覚神経の神経伝導速度をマウス尾で測定したところ、感覚神経伝導速度が低下すること示された。この結果から、シスプラチン投与により舌神経変性が惹起された味覚障害モデルラットにおいて味覚神経機能が変化している可能性が示された。
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