現在、日本において新たな国民病と言われている慢性腎臓病は、初期段階ではほとんど症状はないが、進行すれば透析療法または腎移植が必要となる末期腎不全に至るのみならず、高血圧の進行に伴う動脈硬化により、心筋梗塞や脳卒中などのリスク増加にも繋がる。 本研究では、未だ治療薬が存在しない慢性腎臓病に対する新規治療薬を医療ビッグデータを用いたデータベース解析と基礎的検証による融合研究というアプローチから探索することを目的としている。 平成30年度、融合研究により、FXa阻害剤が慢性腎臓病の新規治療薬になる可能性を見出し、その研究成果を論文報告した(Horinouchi Y et al. Sci Rep. 2018)。 令和元年度、医療ビッグデータFood and Drug Administration (FDA) Adverse Events Reporting System (FAERS)を用いたデータベース解析より、FXa阻害剤以外の新規治療薬を既存薬から探索した。既存薬Aを使用した患者において有害事象としての腎炎の報告割合が少ないことを見出し、既存薬Aの炎症性疾患である慢性腎臓病に対する腎保護効果が期待された。そこで、急性腎障害モデルマウスを用いて、既存薬Aの腎保護効果を検討したところ、血漿クレアチニン、血中尿素窒素、腎臓における炎症性サイトカイン発現増加が既存薬Aの投与により抑制されることを確認した。 令和二年度、引き続き、急性腎障害モデルマウスを用いて既存薬Aの腎保護効果について検討を行い、既存薬Aの投与により腎臓におけるKIM-1やLCNなどの遺伝子発現増加の抑制傾向が認められ、急性腎障害への既存薬Aの腎保護効果が示唆された。現在、慢性腎障害モデルマウスを作成し、急性腎障害同様に既存薬Aの慢性腎障害に対する保護効果の検討を行っており、将来的に新規治療薬の開発を目指す。
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