本研究では有害事象報告データベースを活用し、人工知能技術の1つである機械学習を用いて医薬品の化学構造情報の観点から薬物性肝障害を予測することを目指している。 令和元年度は、PMDAが運用する日本国内の有害事象自発報告データベースであるJADERの2004年第一四半期~2019年第二四半期の期間において抽出された薬物性肝障害の陽性医薬品、陰性医薬品について、閾値等を検討した。Proportional Reporting Ratios(PRR)法としてPRRが2以上、カイ二乗値が4以上、薬物性肝障害の報告数が3以上の全てを満たす医薬品を陽性医薬品とした。陰性医薬品は肝障害が1件も報告されていない、かつJADER全体での有害事象の報告数が10件以上である医薬品と定義した。対応する医薬品の化学構造情報はDragon7を用いて分子記述子を計算し、モデル構築に使用する特徴量とした。機械学習のアルゴリズムとしてランダムフォレストを用いて薬物性肝障害の有無を判別するインシリコ予測モデルを構築した。感度が0.90、特異度が0.24、ROC曲線の曲線下面積(AUC)は0.66が得られた。感度が高いため、肝障害を予測するには適したモデルと言えるが、モデルの全体的な評価指標であるAUCが0.66と十分な性能とは言えなかった。そこで、DILIrankデータ[Drug Discov Today. 2016 Apr;21(4):648-53] のNo-DILIに定義されている医薬品を陰性とし、陽性医薬品はJADERで抽出した医薬品をモデルの構築に使用したところ、感度が0.72、特異度が0.78、AUCが0.84となりAUCが改善された。適切にデータを組み合わせることで性能が改善する可能性が示唆された。
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