本研究では消化管からの薬物の新規吸収制御機構として、細胞内Guanosine triphosphate (GTP)量の変化によるTight junction (TJ)の制御の可能性に着目し研究を展開している。これまでに本研究の基礎となる知見を基に、GTP生成のde novo経路において律速酵素であるInosine-5’-monophosphate dehydrogenase(IMPDH)の阻害剤であるMycophenolic acid (MPA)によるTJへの影響を、ヒト結腸癌由来上皮細胞のCaco-2細胞を用いて行っている。 これまでの検討により、MPAによるTJ形成促進効果の可能性を見出していることから、仮にMPAがTEERの形成を促進するのであれば、消化管疾患をはじめとする消化管粘膜障害を伴う疾患に対して、MPAの暴露による消化管バリアー機能の回復促進(低下抑制)の可能性が考えられる。そこで、TJ開口作用を有する吸収促進剤であるカプリン酸ナトリウム(C10)を用いて、MPAの暴露によるTJ開口抑制効果の有無の検討を行った。C10はMLCのリン酸化を促進してpMLCを増加させることによりTJを開口することが報告されているが、C10の濃度依存的に増加したpMLCに対して、MPA添加によるpMLCの減少は認められず、逆にC10とMPAの両方を暴露させた条件でpMLCが最大値を示した。さらには、paracellular markerの膜透過性に対して、C10単独条件よりも、C10とMPAを両方暴露させた条件の方がparacellular markerの透過量が多いことが認められた。 これらの結果およびMPAの濃度依存的なタンパク量の減少が認められていることから、MPAによるTEERの強化は、MPAによるTJに対する特異的なメカニズムによるものではなく、免疫抑制剤であるMPAの暴露により細胞増殖サイクルが異常をきたし細胞増殖機能が低下したことで細胞間の接着が強くなった可能性が考えられる。しかしながらその詳細に関しては不明であることから、さらなる研究が必要である。
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