研究課題/領域番号 |
18K14993
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
岡田 賢二 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00396673)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬物動態・薬力学解析 / 小児薬物療法 / 抗菌薬 / 治療薬物モニタリング / モデリング・シミュレーション |
研究実績の概要 |
抗菌薬の適正使用は、医療資源を永く活用する上で重要である。一方、小児を対象とした医薬品開発における臨床試験は限られており、小児の薬用量を決定する直接的なデータは成人のそれに比べて極めて少ない。アルベカシン(ABK)は、抗菌薬TDMガイドラインにおいて成人に対する有効性と安全性を考慮した投与量と目標血中濃度が設定されている。しかし、小児に対する投与量は、承認時の用量が示されたままである。本研究では、日本人小児を母集団としたABKの投与量に対する血中濃度と腎毒性との関連性を評価し、ABKの小児の適正用量を確立することを目的とした。 令和元年度は、既報データを基にABKの母集団薬物動態(PPK)モデルの検討を継続し、小児のPPKモデルの構築を目指した。モデル構築の精度を向上させるため、既報以外の構造モデルおよび誤差モデルについても検討し、ベースモデルの最適化を図った。既報のベースモデルと共変量候補となる因子(腎機能、体重、感染症病態)を組み込んだモデルによるシミュレーション値を比較し、共変量がABK血中濃度の予測性に影響を及ぼすことを確認した。さらに、反復投与時のABK血中濃度をシミュレーションし、定常状態時の既報値が予測値の95%タイル内に分布していたことを視覚的に評価することで、共変量を組み込んだ成人のABKのPPKモデルの適格性を評価し再構築した。現在、新生児のABKのPPKモデルの再構築進めている。小児のABKのPPKモデルを検証するために必要な、ABK血中濃度の症例を有する医療機関に研究協力を依頼し、所有症例数を確認した。臨床研究倫理委員会申請の準備を概ね完了した。腎機能を指標とした薬力学的(PD)モデルを構築するため、ABK血中濃度と腎毒性に関連する既報データの情報収集に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、成人のABKのPPKモデルの再構築を完了した。成人と同様のモデル再構築の方法により、既報の新生児のABKのPPKモデルの再構築を進めており、概ね新生児のモデルの再構築の目途は立っている。一方、構築した小児ABKモデルを検証するためには、シミュレーションで使用した以外の小児のABK血中濃度データと共変量に関する臨床検査データが必要となるため、臨床研究倫理員会への申請および承認に時間を要している。 令和元年度の研究計画では、腎機能を指標としたPDモデルについて検討することにしていた。しかし、令和元年度はABKの安全性に関する情報収集に着手したのみで、PDモデルの構築には至っていない。また、PDモデルの検証には、ABKが投与された小児の臨床検査データを必要とするため、PPKモデルの構築と同様、臨床研究倫理員会への申請および承認に時間を要している。 従って、研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は症例調査を実施するため、臨床研究倫理委員会に申請し承認を得る予定である。ABK血中濃度および臨床データの収集を継続し、症例調査より得られた小児ABK血中濃度を組み込み、ABKの小児PPKモデルを構築する。ABK血中濃度および腎毒性との関連性を検討し、腎機能をPDの指標としたPDモデルを記述する。PKモデルおよびPDモデルを統合したPK/PDモデルの構築を目指す。得られたPK/PDモデルを臨床データに適用し、有効性と安全性を考慮した小児ABKの投与量の設定に繋げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は、PPK解析を実施するために必要な、統計解析の受講費用を支出した。平成元年度より、現在の所属研究室に異動したことから、研究室が所有するPPK解析、母集団モデリングおよびシミュレーションの解析ソフトを共用できたため、当初計上していたライセンス料を支出しなかった。インターネット経由で入手した資料、解析結果の印刷に必要な消耗品は学内の共用品を利用できたため物品費を抑えることができた。症例調査を実施する研究協力医療機関での臨床研究倫理審査委員会への申請は、令和2年度も継続することになったため、研究申請に要する諸経費を令和2年度に繰り越した。令和2年度は複数のモデルによるモデリングとシミュレーションを実施するため、新たに解析用コンピュータを購入する必要があり30万円程度かかる見込みである。また、研究成果を公表するため、学会発表の旅費として10万円、論文投稿の諸費用として10万円程度の支出を見込んでいる。
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