シスプラチン(CDDP)耐性獲得機構にミトコンドリア機能低下が関与するか、明らかにするために、ミトコンドリアDNA(mtDNA)を欠損させてミトコンドリア機能低下を示すヒト肺がん由来ρ0A549細胞を樹立し、CDDPに対する感受性について検討した。その結果、A549細胞のCDDPの増殖阻害曲線に対して、 ρ0A549細胞におけるCDDPの増殖阻害曲線は、A549細胞より右側にシフトし、 ρ0A549細胞の50%増殖阻害濃度はA549細胞に比べては2.49倍に増加していた。この結果より、ミトコンドリア機能が低下するとCDDPに対する感受性が低下することが示された。さらに、ミトコンドリア機能低下の要因について、mtDNAの量に着目して検討した。その結果、A549細胞由来CDDP耐性細胞であるACR20細胞におけるmtDNA量はA549細胞と比較して予想に反して有意に増加していた。次に、mtDNAの変異に着目して検討した結果、A549細胞で観察されなかった変異がACR20細胞で観察され、それは電子伝達系複合体Iを構成するサブユニットのタンパク質をコードしていた。ACR20細胞で観察されたmtDNAの変異がミトコンドリア機能を低下させ、CDDP耐性獲得に関与するか明らかにするために、脱核したA549細胞およびACR20細胞をそれぞれρ0HeLa細胞と融合させてmtDNAのみが異なるHeLamtA549細胞およびHeLamtACR20細胞を樹立し、ミトコンドリア機能およびCDDPに対する感受性について検討した。その結果、HeLamtACR20細胞における電子伝達系複合体Iの活性およびCDDPに対する感受性がHeLamtA549と比較して有意に低下していた。この結果より、ACR20細胞のmtDNA変異によりミトコンドリア機能低下が生じ、CDDPに対する感受性が低下することが示された。
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