研究課題
生殖細胞は、多細胞生物の子孫の継続を担う唯一の細胞である。哺乳類の生殖細胞は、発生に伴いシグナルタンパク質の作用で運命決定されるという考えが定説であるが、それだけでは初期胚内のわずか数細胞だけが生殖細胞に分化するメカニズムが解明されず、生殖細胞の起源となる細胞と、それを生み出す未知の因子の存在が考えられる。そこで本研究は、マウスの生殖細胞の起源となる細胞を同定することを目的としている。まず初期の始原生殖細胞(PGC)と 5.5日胚の単一細胞RNA-seqデータ(GSE1000597)の遺伝子発現量の値を用いてPCAを行い、各発生段階の細胞の中で初期PGCに近い分布の細胞の抽出を試みた。しかし、初期PGCが出現する6.5日胚の単一細胞RNA-seqデータのPCAで初期PGCと他のPGCの分布が明確に分かれないことが明らかになり、PCAで5.5日胚の細胞の中で初期PGCに近い分布を示すものを抽出することはできないと判断した。そこで、5.5日胚の単一細胞RNA-seqデータを用い、PGCの形成に必要なBMPへの応答能を持つ細胞を抽出し、その細胞で特異的に亢進している遺伝子やシグナル系に着目することにした。5.5日胚の単一細胞RNA-seqデータの中でBMP受容体と細胞内シグナル経路のSmadの発現が高い51細胞を抽出し、それらに高発現している5遺伝子をPGC形成に関わる候補遺伝子として今後検証していくこととした。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたPCAによる絞り込みができずに進展が危ぶまれたが、方針を変更して目標の候補遺伝子の選定を達成できたため、おおむね順調と判断した。
Blimp1-RFPレポーターマウスの6.5日胚を単一細胞化し、Blimp1-RFP 陽性のPGCを蛍光顕微鏡下で分取する。この細胞について②で絞り込んだ候補遺伝子の単一細胞定量PCRを行い、同時に分取したBlimp1-RFP陰性の細胞との比較で遺伝子発現が増加しているかを検証する。検証できた遺伝子は、3.5から6.5日胚を用いてwhole mount in situ hybridization(WISH)を行う。発生段階の初期から特定の細胞に発現が見られれば、その細胞が生殖細胞の起源となる細胞と考えられるため、特に有力な候補とし、当該遺伝子のノックアウトマウスをCRISPR/Cas9 システムで作出する。6.5日胚でBlimp1陽性のPGCの形成に異常が起こるかを検証し、PGC形成に異常が起これば、その遺伝子を発現している細胞が生殖細胞の起源となる細胞と考えられる。ただし、これまでに候補とした5遺伝子がPGC形成に関係しておらず期待される結果が得られない可能性もあるため、事前策として、最近PGC形成に関与することが報告されたOtx2に着目した解析や遺伝子発現以外の方法で細胞を特徴づける方法など、他の方針も模索している。
当初の計画では絞り込んだ候補遺伝子について単一細胞PCR解析等を行うことを予定していたが、実際はin silico解析のみの実施であったため、交付額は次年度に繰越すことにした。繰越し額は、次年度に予定通り単一細胞PCR解析やin situ hybridizationに使用することを予定している。
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Development
巻: 145 ページ: Dec 3;145(23)
10.1242/dev.164160
Developmental Biology
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