上皮細胞の集団遊走は発生や創傷治癒などでみられ、細胞集団は先頭の高い運動能をもつリーダー細胞と、フォロワー細胞とに分かれる。シグナル分子の局在観察などからリーダー、フォロワーの違いは明らかになってきたが、既存の方法論では細胞集団の特定の細胞でのみシグナル分子の活性を変動させることができず、集団遊走の本質的な理解は得られなかった。そこで、本研究では時空間的にシグナル分子の活性を制御できる光遺伝学を利用し、(i)リーダー細胞が形成される分子機序、(ii)リーダー・フォロワー関係を維持する分子機序を明らかにすることを目的とした。 本年度はまず昨年度樹立したPI3Kの光スイッチ安定発現MDCK細胞を用いてコラーゲンゲル上で障壁除去後に周縁部の1細胞のみに青色光を照射することでリーダー細胞の形成を誘引することができるかを検討した。結果として光照射細胞が有意にリーダー細胞となる結果は得られなかった。光照射パターンによるかもしれないが、最近、障壁除去前に既に細胞集団はヘテロになっており細胞周縁部に近くリーダー細胞の形質を持った細胞が確率的にリーダー細胞になるという報告があり、本研究については中断した。 一方、一旦形成されたリーダー・フォロワーの関係維持にRhoAの活性が必要であるかという検討については、昨年度の時点ではRhoGAPスイッチの発現量の減少が問題であると考え、2Aペプチドでつないで発現させていたスイッチの部品を別個に発現させる系に切り替えたが、問題点は発現量よりもスイッチを発現した際のバックグラウンドであることが強く疑われた。最近、こういった問題を解決する方法論がいくつか報告されており、スイッチのデザインから見直す必要があり、引き続き検討中である。
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