研究課題/領域番号 |
18K15003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
服部 祐季 名古屋大学, 医学系研究科, 学振特別研究員(PD) (10754955)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミクログリア / ライブイメージング / CX3CR1 / CXCL12 / CXCR4 / ニューロン / 神経前駆細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は、マウス胎生期大脳におけるミクログリアの動態、そして脳発生への貢献について研究を進め、論文を2報発表した。まず、ミクログリアが神経前駆細胞の分化を促進し、Tbr2陽性の中間前駆細胞の数を増すということを見出し、さらにその機能を十分に発揮するには、ミクログリアがCXCL12/CXCR4(CXCL12は脳室下帯に存在する中間前駆細胞が発現し、CXCR4はミクログリアが発現する)を介して脳壁内を広く移動することが重要であることを明らかにした。このことについて論文をまとめ、Genes to Cells誌に発表した。 そして、脳発生・神経発生学の研究に汎用される子宮内電気穿孔法(in utero electroporation, IUE)の「プラスミドDNAを脳室に注入する」というステップによって、通常では脳壁全体に散らばって存在するミクログリアが脳室面近くに並ぶように集積すること、そしてこの変化は、ミクログリアが発現するToll様受容体9(Toll-like receptor 9, TLR9)のDNA認識によって引き起こされることを明らかにした。また、TLR9のアンタゴニストであるODN 2088をプラスミドDNAと同時に脳室内に注入することによって、ミクログリアの異常な集積が緩和されることを見出した。この成果はeNeuro誌に発表し、また同誌のコミュニティサイトのeNeuro blogにおいてEditor’s picksとして取り上げられた。 一方で、本課題開始時より取り組んでいるミクログリアの時期依存的な分布変化のメカニズム、そして皮質板から一時的に不在となる意義についても並行して調べ、論文投稿にこぎつけた。現在、in revisionの段階であり、追加実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、胎生中期におけるミクログリアの脳実質での挙動や、神経前駆細胞の分化を手助けするなどの役割について明らかにし、論文を2報発表するなど順調に研究が進展している。また、実験を遂行するなかで予期せずに発見した「プラスミドDNAの脳室内注入によってミクログリアが脳室面近傍へ集積する」ことに関して、その分子メカニズムを明らかにするとともに、子宮内エレクトロポレーションによる技術的懸念を提唱した。 一方で、本課題のメインテーマとして掲げている「胎生中期においてミクログリアが皮質板から一時的に抜け出す」現象に関しては、本年度の目標として提示していた事柄について、一部未到達の項目も残っているが、概ね達成している。予想外の結果もあったことから若干の軌道修正を行いつつも、当初の計画に則って着実に進めている。またこの内容に関しては昨年秋に論文を投稿し、現在はin revisionの段階である。一連の計画を通じて新たに浮上した疑問、あるいは見出した事実についても注意深く考察し、より深く充実した内容になるよう進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず直近の目標として、現在投稿中の論文の追加実験を引き続き進める。これまでに、「ミクログリアが本来いないはずの皮質板に存在した場合に、ニューロンサブタイプのバランスに影響を与えるか」という疑問に対して、多岐にわたる実験系からのアプローチによってこれを検討し結果を得てきたが、その結果を説明する分子メカニズムを明らかにするため、さらなる詳細な解析を行っていく。具体的には、RNAシークエンス解析、フローサイトメトリーによる発現解析である。 一方で、本課題計画書の第3年目の課題として提案した「母体炎症による過剰な免疫活性化による脳発生への影響」に関しても、計画通りに進めていく予定である。計画書に提示した種々の母体感染モデルを利用し、本課題の遂行にあたり重要な「二光子顕微鏡による子宮内ライブイメージング」の観察システムをさらに改良し、in vivoでの様々な細胞の動態をとらえるとともに、細胞レベル、組織レベルでの詳細な解析も行っていく。現在までに捉えている正常脳でのミクログリアの挙動や機能に注目し、母体炎症によるミクログリア活性化の観点から、それらへの影響を綿密に調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に、これまで得ている結果の解釈をより深めるためにRNAシークエンスの受託解析を依頼する予定であったが、当初の予定よりもサンプル調製に時間がかかり、遅れが生じたため未使用額が生じた。したがって、次年度初めに解析を依頼することとし、未使用額はその費用に充てるつもりである。
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