胎生期大脳において、ミクログリアは胎齢の進行に伴い分布を変化させることが知られている。すなわち、胎生早期や後期では大脳実質全体にほぼ均一に存在しているが、胎生中期(胎生15~16日目)の一時的な期間において皮質板から不在となる。本課題では、このようなミクログリアの分布変化の分子機構と、皮質板から一過性に不在となる意義について明らかにすべく研究を推進した。 脳スライス培養ライブイメージングを通じて、胎生14日目にミクログリアが髄膜もしくは脳室下帯に向かって両方向性に移動し、皮質板をあけ放すことを見出した。そして、その移動に関わる分子として、CXCL12/CXCR4を同定した(髄膜や脳室下帯がCXCL12を産生し、ミクログリアはCXCR4を介してそれを認識し走化性を示す)。 そして、ミクログリアが胎生中期に皮質板から一時的に退出する意義について調べる為、ミクログリアを強制的に皮質板へと誘引し、近傍のニューロンへの影響を解析した。その結果、異所性ミクログリアの周辺に存在するニューロンにおいて、将来の機能・性質獲得に重要な分子群の発現パターンに乱れが生じていることを見出した。さらに、その発現変動に関わるミクログリア由来の候補分子として1型インターフェロン(IFN-I)およびインターロイキン6(IL-6)を同定し、それらの関与について細胞レベルおよび生体レベルで解析した結果、両者がニューロン成熟を乱す要因であることを発見した。以上のことから、ミクログリアは自身が産生するIFN-IやIL-6がニューロンの成熟・将来的な性質獲得プロセスを乱してしまう恐れがある為、CXCL12/CXCR4の機構を利用して適切なタイミングで皮質板から離脱することが示唆された。 本研究成果は、Nature Communications誌に発表した(2020年4月2日)。
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