研究課題/領域番号 |
18K15004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
折井 みなみ 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (60792645)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪滴 / ミトコンドリア / リポファジー |
研究実績の概要 |
脂肪滴は多くの真確生物に保存されたオルガネラであり、中性脂質のコアをリン脂質一重膜が覆っている。出芽酵母では、対数増殖期には脂肪滴が細胞全体に分布しているのに対し、増殖停止期においては増加した脂肪滴が液胞膜周囲に並んだ後液胞内に取り込まれ分解される。この機構をリポファジーといい、脂肪滴が直接液胞膜の陥入により取り込まれるミクロオートファジーによって起こる。我々は、この増殖停止期におけるリポファジーに脂肪滴膜タンパク質Xが必要であり、Xに部分変異を導入した酵母細胞ではこの現象が起こらないことを見出した。さらに増殖停止期の脂肪滴の網羅的な探索により、ミトコンドリアタンパク質が脂肪滴に搭載され液胞中で分解されることを発見した。このことからミトコンドリアタンパク質を選択的に脂肪滴に搭載し、脂肪滴を介して分解する機構の存在が示唆される。すなわち脂肪滴はエネルギー源として分解されるだけでなく、損傷したミトコンドリアタンパク質を時期特異的に分解するための足場として細胞内恒常性保持の一翼を担っていると考えられる。増殖停止期にある酵母は中枢神経細胞など哺乳類の非分裂細胞のモデルと考えられている。リポファジーは酵母だけでなく哺乳類においても確認されており、関与する遺伝子も酵母から哺乳類まで保存されていると予想される。脂肪滴が肥満や脂肪肝など脂質代謝異常に密接に関与していることはよく知られているが、ミトコンドリアや異常タンパク質の分解との関連を示す論文はほとんどない。この研究により脂肪滴を介したタンパク質分解メカニズムが解明されれば、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積が原因となるアルツハイマー病や、α-シヌクレインの蓄積によるミトコンドリアの機能不全が報告されているパーキンソン病などの病態解明への新たな道筋が開け、予防や治療にもつながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪滴膜タンパク質Xの各種変異体、および欠損細胞を用いてもリポファジー、およびミトコンドリアタンパク質の搭載は阻害されたため、これらにX全長が必要であることが分かった。また、異常タンパク質を人為的に発現させた細胞で異常タンパク質が液胞中で分解されること、異常タンパク質のリフォールディング機能をもつHsp104を欠損させた細胞ではリポファジーが亢進することも明らかになった。さらにリポファジーに必要な液胞膜タンパク質もしぼられつつあり、これらの結果は脂肪滴が液胞膜と結合するリポファジーメカニズム、そして脂肪滴を足場とするタンパク質分解のメカニズムとその意義を検討するにあたり重要なものである。
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今後の研究の推進方策 |
代表者の異動に伴い研究室が変わったため、研究できる環境へのセットアップに時間と今年度の予算を消費している。機器や試薬が揃い次第実験を進め、リポファジーに必要な液胞膜タンパク質の同定に移るとともに、ミトコンドリアタンパク質が脂肪滴に搭載されるメカニズムを明らかにしたいと考える。また、脂肪滴の電子顕微鏡解析にあたり不明な構造体が脂肪滴のそばに存在することが分かったが、この解析のための電子顕微鏡や急速凍結・凍結割断レプリカ作製装置については買うことができないため、以前の研究室や他の研究室に借りにいき実験を継続する予定である。
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