脂肪滴は多くの真核生物に保存されたオルガネラの一つであり、その表層はリン脂質一重層で覆われている。出芽酵母では増殖停止期に脂肪滴の形成が増加し、それらは液胞周囲に並んだ後液胞膜が内側に陥入するようにして液胞内に取り込まれる(リポファジーという)。我々は、この増殖停止期の脂肪滴に細胞中の特定のタンパク質が搭載され、脂肪滴ごと液胞に取り込まれ分解されること、およびその特定のタンパク質の搭載に必要な脂肪滴上の膜タンパク質Xを欠損させたり、部分変異を導入した細胞ではこの現象が起こらないことを見出した。さらに我々はXと結合する液胞膜上の膜タンパク質Yも同定した。対数増殖期の脂肪滴におけるこの特定タンパク質の搭載はわずかであることから、増殖停止期特異的、かつ選択的な分解機構の存在が示唆される。すなわち脂肪滴は増殖停止期におけるエネルギー源として分解されるだけでなく、特定のタンパク質を時期特異的に分解するための足場となり細胞内恒常性保持の一役を担っていると考えられる。 増殖停止期にある出芽酵母細胞は、中枢神経細胞など哺乳類の非分裂分化細胞のモデルと考えることができる。この研究により脂肪滴を介したタンパク質分解メカニズムが解明されれば、アミロイドβやタウタンパク質の蓄積が原因となるアルツハイマー病や、α-シヌクレインの蓄積によるミトコンドリアの機能不全が報告されているパーキンソン病、心筋細胞のDanon病などの病態解明への新たな道筋が開けるだけでなく、予防や治療にもつながる可能性がある。
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