研究課題/領域番号 |
18K15008
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
東島 沙弥佳 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (10792830)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 尾部 / 退縮 / 発生 |
研究実績の概要 |
ニワトリプロジェクではこれまで、汎カスパーゼ阻害剤を用いた細胞死阻害実験を行った。その結果、ニワトリ胚発生過程において生じる著しい尾部退縮には、尾部神経管における細胞死が重要である可能性がみえてきた。これは、外胚葉由来の尾部神経管で生じる細胞死が、中胚葉由来の尾部体節に作用して協調的に尾部が退縮するメカニズムの存在を示唆している。 またハムスタープロジェクトでは、比較的長い尾をもつマウス・チャイニーズハムスターと短尾のキャンベルハムスターでは、尾部形態形成過程が異なることが見えてきた。前者では尾部先端のみが時間をかけて退縮するのに対し、後者では、体軸伸長が終了し尾部が最長となった直後に著しく尾部が退縮することがわかった。キャンベルハムスターで観察された尾部退縮は、ヒト胚やニワトリ胚で観察してきた事象と非常に類似しており、短尾形質を形成する発生過程のメカニズムが広く羊膜類間で保存されている可能性がみえてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はハムスタープロジェクトに重点をおいて研究を推進した。初年度の研究成果から、比較的長い尾をもつマウス・チャイニーズハムスターと短尾のキャンベルハムスターとでは、尾部形態形成過程が異なることが見えていた。前者では尾部先端のみが時間をかけて退縮するのに対し、後者では、体軸伸長が終了し尾部が最長となった直後に著しく尾部が退縮することがわかった。キャンベルハムスターで観察された尾部退縮は、ヒト胚やニワトリ胚で観察してきた事象に非常に類似しており、共通の分子・発生メカニズムが保存されている可能性が高いと予想していた。そこで、当該年度はそのメカニズムに関与する分子の探索を目的とし、文部科学省科学研究費助成事業新学術領域『学術研究支援基盤形成』の「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム (略称・先進ゲノム支援)」に申請をし、2019年度支援課題として採択された (本支援制度は、科研課題の更なる推進のための支援を実施するものである)。そこでこの先進ゲノム支援のもと、マウス・チャイニーズハムスター・キャンベルハムスター・ニワトリのRNA-seqを行った。具体的には、発生段階の異なる(体軸伸長終了時点・尾部退縮中・尾部退縮終了時点) 胚子の尾からtotal RNAを抽出し、これを解析に供した。年度途中、ハムスター飼育に関する問題が生じる (原虫陽性反応が出る) ・RNA解析に予想以上の時間を要する等、想定していなかった事態が生じたため現在もRNA-seqの結果は解析途中である。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度、先進ゲノム支援課題に採択された事により、今回の助成期間内では難しいと予想していた短尾有羊膜類における胚子期の尾部退縮に直接関わる遺伝子の網羅的探索が現実味を帯びた。そこで翌年度は、当該年度に実施したRNA-seqの結果解析を行い、短尾有羊膜類の胚発生段階に生じる急激な尾部退縮に関する分子メカニズムの解明を目指す。具体的には、胚子尾部の発生過程(伸長終了→退縮→退縮終了)におけるRNA発現の変化を短尾有羊膜類 (キャンベルハムスター、ニワトリ) と比較的長尾の有羊膜類 (マウス、チャイニーズハムスター) で比較し、関連分子を見つけ出す。次に、そうした候補遺伝子の発現時期・部位の特定を進めるため、in situ hybridization 法の実施を予定している。また、候補遺伝子の具体的な働きを確かめるため、遺伝子改変マウスの作成も計画している。この予算は、当初画像解析ソフトAmiraを購入しようと確保していたものを充てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、画像解析ソフトAmiraを当該年度購入予定であったが、結局購入には至らなかった。 これは、ハムスター飼育において想定外の問題が生じたためである。当大学の動物舎が実施している検査で飼育していたハムスターの1匹に原虫陽性反応が見られたため、大学よりこれ以上の飼育継続の停止を提言された。そのためこれまでのように飼育による胚採取が困難となった。そこで、ハムスターの分与元である宮崎大学に協力を要請し、交尾・妊娠計画を宮崎で実施、妊娠個体を大阪へ輸送してもらう計画へと変更した。そのため、その輸送費などが急遽必要となり支出計画の変更を余儀なくされた。Amiraの購入が助成期間内では困難となったため、代替となりうる無料ソフト3D slicerの試用を開始した。 Amira購入に充てる予定だった費用の内、翌年度分に持ち越すことが出来た額は、遺伝子改変マウス作成に充てることを予定している。
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