研究課題/領域番号 |
18K15009
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
大江 総一 関西医科大学, 医学部, 助教 (70599331)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 胆汁酸 / CYP7A1 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、脳梗塞領域に出現する胆汁酸を「脳由来胆汁酸」と捉え、その合成メカニズムと生理機能を明らかにする事により新規脳梗塞治療法確立を目指している。平成30年度は、梗塞領域ニューロンにおける虚血依存的な脳由来胆汁酸の合成亢進メカニズムの解明を実施した。脳梗塞モデルマウスおよび培養ニューロンへの低酸素・低グルコース負荷実験(OGD実験)を用いて、胆汁酸合成律速酵素CYP7A1がニューロン特異的に発現する事、梗塞後の時間経過とともにその発現量が増加し胆汁酸の蓄積量も増加する事を明らかにした。さらに、このCYP7A1発現上昇は梗塞領域のアポトーシス陽性細胞では観察されず生存ニューロンにおける生理的な現象である事を明らかにした。また、胆汁酸合成に関わる他の酵素(HSD3B7、CYP27A1)についてもニューロン特異的な発現上昇を認めた。 次に、梗塞領域のニューロンでのCYP7A1発現上昇メカニズムを明らかにするために転写因子の探索を行った。データベース探索からCyp7a1遺伝子のプロモーター領域にSTAT3が結合しうる事が示唆され、実際に免疫組織化学法によりCYP7A1陽性ニューロンでのSTAT3発現が確認された。そこで神経系でのCyp7a1転写におけるSTAT3の関与を検証するためにプロモーターアッセイを行った。Cyp7a1プロモーターは通常培養条件下の神経芽細胞株Neuro2aでは転写活性を示さなかったが、OGD条件下およびSTAT3共発現条件下で有意にその転写活性が上昇した。さらにこの活性上昇は、Cyp7a1プロモーターにおけるSTAT3認識領域の欠損やSTAT3選択的阻害剤の添加により抑制された。これまでの報告から虚血に伴うSTAT3活性化が知られており、STAT3依存的なCyp7a1発現亢進が梗塞領域での胆汁酸合成を誘導すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の実施状況について、平成30年度は虚血依存的なSTAT3活性化によるCyp7a1転写亢進という新たな知見を得ており、当初の計画通り脳由来胆汁酸の合成亢進メカニズムの分子基盤の解明を遂行している。計画立案時にはCyp7a1プロモーターに相互作用する転写因子として低酸素時に活性化するHIF1αを想定していたが、実際には梗塞領域で検出されないという免疫組織染色の結果から別の因子を探索しSTAT3の解析に至った。また、ヒト脳梗塞検体での胆汁酸量・CYP7A1発現量の解析のため、現在、所属機関の倫理審査承認申請および共同研究体制を整えている。これらの状況を考慮し、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度以降の研究については当初の計画どおりに進める。すなわち、「脳梗塞領域に出現する胆汁酸の標的細胞・構造の同定とその作用機序の解析」を実施する。胆汁酸は核内受容体FXR、Gタンパク質共役受容体TGR5を介して糖代謝、脂質代謝を制御するシグナル分子である事が報告されており、脳梗塞領域においてこの胆汁酸シグナリングが誘導される標的細胞種を同定する。具体的には、①反応性アストログリオーシスに対する脳由来胆汁酸の機能解析、②脳特異的胆汁酸シグナル不活化マウスの作製を行う。また、脳梗塞領域における髄鞘由来の脂質デブリを胆汁酸のミセル形成作用により排出できるのかを検証するために、③病変組織除去システムとしての脳由来胆汁酸の機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画では当該年度内に、脳梗塞領域での胆汁酸可視化、律速酵素CYP7A1発現細胞種の同定、CYP7A1発現変化の解析、等の結果をまとめ英文生命科学雑誌にて発表する事を目指しておりその英文校正費、投稿費を計上していた。実際には、CYP7A1発現制御メカニズムの解析の結果を加えることでより質の高い内容になると判断し投稿を延期したため、投稿に係る費用が次年度使用額として発生した。次年度は英文生命科学雑誌にて発表するための費用として使用する。
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