研究課題
本研究では、インスリン投与後のマウス骨格筋構成分子濃度の時間変化を定量し、骨格筋代謝制御に与える分子間相互作用の影響を解析してきた。特に令和4年度は、タンパク質リン酸化修飾の定量を実施し、得られたデータを前年度までに計測済みのものと合わせて、並行して開発してきた多階層ネットワークの構築・特徴解析・可視化のスキームに適用した。また、スキーム開発に使用しつつ種々の解析を行ってきた肝臓における多階層ネットワークと比較することで、骨格筋ネットワークに特異な部分を抽出した。これらにより、インスリンに応答して時間変化が見られた代謝物・タンパク質(発現量もしくはリン酸化量が変化したもの)・RNAおよびそれらの制御分子候補の間の相互作用ネットワーク(約1万ノード・2万エッジ)が得られ、その生物学的プロセスの全体像が明らかになった。リン酸化情報伝達部分は、インスリンの実行濃度の違い等を反映して肝臓と比べると小さめとなったが、タンパク質量制御においては、リン酸化を含めた転写後の影響がRNA量変化からの影響よりも大きそうな傾向は類似していた。代謝応答は、肝臓と比較すると代謝物の濃度変化としてはあまり観測されなかったものの、様々な代謝経路に影響するミトコンドリアやリボソームの制御を示唆するパスウェイがネットワーク中に特徴的に見出されたことから、代謝物量の計測のみからでは推測できない幅広い代謝改変が誘導されている可能性が考えられた。網羅的な分子定量と多階層ネットワーク作成による新規アプローチにより、多様な分子間の個々の相互作用から全体像の解明までを包括的に行う道筋が示された。この枠組みのさらなる発展を通して、骨格筋代謝に加えてより幅広い生命現象の制御メカニズムの理解を目指したい。
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https://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/omics/