研究課題
マラソン選手など持久運動のアスリートには心拍数の著しい低下を示す徐脈性不整脈の発生頻度が高いが、その分子メカニズムは明らかでない。一方、最近研究代表者らは運動誘発性徐脈を引き起こす「ペースメーカー組織におけるイオンチャネルリモデリング」に、特定の転写因子やマイクロRNAの発現変動が重要であることを明らかにしてきた(Nat Commun 2014, Circ Res 2017)。本研究では、心拍動の指令塔とも言える心臓ペースメーカー組織を対象として、運動モデルマウスを用いた電気生理解析および網羅的な遺伝子発現解析を実施し、運動誘発性徐脈の原因となる分子およびシグナル伝達系を見出す。特に、過度の有酸素運動による骨格筋および心筋組織の機能低下の原因として知られる活性酸素種が、心臓ペースメーカー組織のミトコンドリア機能および動態にどのような影響を与えるのか、それがペースメーカー機能の低下に関係しているのかに着目して研究を推進する。これまでに運動誘発性徐脈モデルマウスを作製し、モデルマウスの心臓ペースメーカー組織である洞房結節において、運動による遺伝子発現パターンの変化を網羅的に調べた。その結果、多くの遺伝子の発現減少が見いだされ、徐脈を説明しうるイオンチャネルや自律神経調節因子など心拍生成および制御にかかわる遺伝子が発現変動していることが分かった。今後は、酸化ストレスやミトコンドリアに関連する遺伝子群の詳細な変動パターンを解析し、心拍制御への直接的ないし間接的な関与を見出していく。
2: おおむね順調に進展している
C57B/6マウスに1日2回60分間の強制水泳運動を4週間課すことで拍数の低下を示す運動誘発性徐脈モデルマウスを作製した。心臓ペースメーカー組織・洞房結節から抽出したRNAについて網羅的遺伝子発現解析を実施した。マウス洞房結節は微小組織であるため、サンプルには前増幅処理を施した。解析生データを各遺伝子の発現量を数値化したTPM形式に変換したのち、運動によって発現変動した遺伝子群を抽出した。41,195遺伝子の発現量を解析した結果、安静群のマウス洞房結節には19,679遺伝子が発現しており、そのうち655遺伝子が運動によって2倍以上に増加、4,306遺伝子が1/2以下に減少していた。イオンチャネルや自律神経調節因子など心拍生成および制御にかかわる遺伝子に発現変動が認められた。
運動誘発性徐脈に対する酸化ストレスの役割を明らかにするために、RNAシークエンシングの結果に基づいた細胞内シグナル伝達系の解析および治療標的の探索を実施する。網羅的遺伝子発現解析では、酸化ストレス関連因子についても一部の遺伝子の発現変動を認めており、この変化が心拍制御に影響を与えているかどうかを確かめるために、in silico解析を進める。ミトコンドリア関連遺伝子についても同様に解析を進める。徐脈を引き起こす細胞内シグナル伝達系を絞り込み、その病態因子の中からさらに治療標的の候補を見出していく。また、徐脈モデルにおける酸化ストレスの影響を調べる目的で、抗酸化薬を投与した運動実験を実施し、治療的効果があるかどうか検証する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件) 備考 (3件)
Frontiers in Molecular Neuroscience
巻: 12 ページ: 56
10.3389/fnmol.2019.00056
http://research-db.ritsumei.ac.jp/Profiles/134/0013394/profile.html
https://orcid.org/0000-0001-8990-1179
https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000030646956/